人材不足が深刻化ー企業への影響と取り組むべき課題とは

現代の日本社会において大きな問題とされている人材不足。とりわけ若年労働者の不足は顕著で、総人口の減少や少子高齢化が進むなかで今後状況はますます厳しくなると言われています。このまま人材不足が進むと、企業活動にはどのような影響が出るのでしょうか。人材不足の現状や、企業や経営者が取り組むべき経営課題についてまとめました。(2022年8月30日更新)
※経営課題の全体像については「今解決すべき中小企業の“5大”経営課題とは?解決のヒントを解説」もあわせてご覧ください。
人材不足を感じている中小企業は実に7割超
日本の総人口は戦後増加の一途をたどっていましたが、2008年に1億2,808万人に達したのをピークに減少し続けています。総務省統計局の人口推計の調査によると、2020年12月時点での総人口は1億2,571万人。2008年と比べて数字のうえでは大きな減少はないように感じるかもしれませんが、少子高齢化の影響もあり2060年の人口は8,674万人にまで減少すると見込まれています(総務省『平成28年版情報通信白書』を参照)。
これだけ人口が減少すると、当然ながら労働人口にも大きな変動があります。同じ総務省統計局の調査によると、2020年7月時点での生産年齢人口(15歳以上~65歳未満の人口で、国内の生産活動に就く労働力の中核となる人口)はおよそ7,464万5,000人ですが、2030年には6,773万人、2060年には4,418万人にまで減少すると見込まれており、2020年から比べると約41%も減少することになります。40年後には今の仕事を6割の人間でこなさないといけないと考えると、その影響の大きさが想像できるのではないでしょうか。
この労働人口の減少は現在進行中の現象であり、すでに人材不足を感じている企業も少なくありません。独立行政法人中小企業基盤整備機構が2017年に発表した「中小企業アンケート調査報告『人手不足に関する中小企業への影響と対応状況』」によると、中小企業の実に73.7%が人材不足を感じているという結果が出ています。コロナ禍を経験し更にその流れは加速しているように思われます。また、このうち不足が「かなり深刻」「深刻」と答えたのは52.8%にも上り、すでに日常業務にも大きな影響が出始めていることがうかがえます。
人材不足は人口減少だけが原因ではない
社会全体で人材不足が起こる背景には、人口の減少以外にもいくつかの原因があります。そのひとつとして挙げられるのが、高齢化社会の進行やひとり親世帯、核家族化の増加により育児や介護を理由に離職する人が増えていることです。
特に育児に関しては待機児童の問題もあり、働く意欲はあるのに子どもの預け先がないという理由で離職する人も少なくありません。こうした人々は働き盛りの年代であるケースが多く、時間やコストをかけて育成した社員が辞めていくのは企業にとっても大きな損失と言えるでしょう。
さらに、有効求人倍率が高いことも人材不足の原因として挙げられます。2020年度は新型コロナウイルスの影響もあり雇用は減少傾向にありましたが、厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると2019年度の平均有効求人倍率は1.55と非常に高い水準にあり、求職者1人に対して1.55件の求人があるいわゆる「売り手市場」の状況にあることが分かります。こうした状況においては条件のいい企業に人材が流れるため、特に大手企業や都市部の企業に応募者が集中しやすくなります。そのため中小企業や地方の企業にとっては人材確保が難しく、さらに人材不足が加速することになるのです。
こうした状況に対し、国も働き方改革や少子化対策などの施策を打ち出してはいますが、効果が得られるにはまだ時間がかかる状況です。
人材不足がまねく悪影響-従業員へのしわ寄せ増加
人材不足はどの企業にとっても共通の課題ですが、求職者の動向や社会情勢などに大きく左右されるため、対策を講じてもすぐに応募者が増えるとは限りません。しかし、あまり問題を放置すると企業活動に深刻な悪影響を及ぼすケースもあり注意が必要です。
人材不足の状況を放置してしまうと、少ない人員で通常の業務量をこなさなければいけなくなるため、従業員にしわ寄せがいくことになります。平日の業務時間内に仕事が終わらなければ残業や休日出勤が増えることになり、これが常態化すれば心身ともに疲弊し、モチベーションの低下やオフィスの雰囲気の悪化にもつながるでしょう。その結果、離職者が増えることになれば人材不足はさらに加速していくことになります。
また、人材が足りないのに業務量が変わらなければ仕事のクオリティは低下し、結果として製品やサービスの品質も悪化します。これが業績に影響することになれば、これまで築いてきた企業ブランドや信用の低下につながることになるのです。
人材不足を解消する方法
生産年齢人口の減少により、人材不足は避けられない時代になっています。こうした状況のなか、企業は人材不足解消のためにどのような対策を行うべきなのでしょうか。
1) 業務効率化を図る、アウトソーシングの活用
少ない人手で仕事をこなすためには、まずは現在の業務内容で効率化できるところがないか見直してみるといいでしょう。例えば、業務プロセスのなかで省略できる箇所がないか、必要がないのに慣例化して開かれている会議がないか、書類の決裁に手間がかかりすぎていないかなど、ムダな作業を省くだけでもかなりの時間を確保することができます。
また、派遣会社や業務委託など外部の人材を活用するアウトソーシングも有効な方法のひとつです。あくまで対症療法的施策ですが、繁忙期だけ人を増やしたり、プロジェクト単位でチームを組んだりするなど、効率的に人員を配置することで人材不足の解消につなげることができるでしょう。
2)離職されにくい業務環境を構築する
人材不足を解消するためには、離職されにくい業務環境を整備することも重要です。残業や休日出勤をしなくてすむよう業務内容を見直したり、働きやすいオフィス環境を整備したりすることはもちろんですが、育児や介護などで離職する人が多い場合は、時短勤務や在宅勤務制度を導入することで人をつなぎとめることができるかもしれません。
従業員が離職してしまうと、新しい人材を探すために時間もコストもかかり、さらにチームのリソースも引き継ぎや教育に割かれることになります。こうした損失を考えると、従業員が気持ちよく働いてくれる環境を整えるためにコストをかけた方が結果として企業にとっても利益につながるともいえるでしょう。
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3) 応募条件を変えてみる
採用活動がうまくいかない場合は、採用条件を変えてみるのもひとつの方法です。既存の従業員との兼ね合いもあるため大きな賃金アップは難しいかもしれませんが、年齢や性別、学歴、国籍などの枠組みを見直し採用条件を広げてみると、応募者数が増える可能性があります。これまで必要なスキルは持っているのに、条件が合わず応募できなかった人材が獲得できるようになれば、人材不足の解消にもなるでしょう。
採用市場では学歴が高く若い人材ほど企業からの人気も高くなります。しかし、有効求人倍率が高く売り手市場の現状では、あまり応募条件を厳しく絞りすぎると、かえって採用活動をやりにくくしてしまうリスクがあります。自社にとって必要なのはどのような人材なのかを見直し、それに合わせて条件を設定することが重要です。
人材不足は企業活動に悪影響を与えるー早めの対策を
人材不足はただ業務リソースが不足するだけでなく、企業活動そのものに大きな影響を与えるため早急に解決が必要です。最近は企業が抱えるさまざまな悩みをまとめて相談できる経営カウンセリングも増えています。必要に応じてこうしたサービスを活用するのもおすすめの解決策です。
当社では、対話を通じて経営者様の悩みを解決へと導く「経営カウンセリング」サービスを提供しています。また、人材不足対策を打っても、なかなか結果に繋がらないことも多くあります。ハンズオン型の現場支援「インストラクションコーチング」も是非ご活用いただきたいと考えます。人材不足に関する相談にも親身にアドバイスいたします。ぜひ現状にお困りの際には、一度お気軽にご相談いただければ幸いです。
参考:
人口推計(令和2年(2020年)7月確定値,令和2年(2020年)|総務省統計局
中小企業庁:2020年版「中小企業白書」 第1部第1章第3節 人手不足の状況と雇用環境
「人材不足に関する中小企業への影響と対応状況」に関する中小企業アンケート調査結果