ハラスメント防止・メンタルヘルスに対する経営者視点からの対策

ハラスメント防止の対策を行うため、今年2022年4月1日から全ての企業に「パワハラ防止法」が適用、義務化されました。ハラスメントについて適切に対応しない場合、従業員に対する「安全配慮義務違反」となる可能性があります。これまでもハラスメントへの対策は打ち出されてきたものの一重取り締りが行われるようになったということともいえます。その背景には、デジタル化による生産性の向上が図られる中、ここ数年で言えば、コロナ禍などにより、労働環境が激変し、管理する側も働く側もメンタルの不調が影響している面が有ると言われてもおります。
今回はハラスメントを如何に防ぐか、職場のメンタルヘルスをどうしたら整えられるかについて、経営者視点から本質的な考察をしてみたいと思います。先ずは、ハラスメントについてです。
ハラスメント対策
増えている職場の問題にパワハラ・セクハラ・モラハラ・マタハラなどの所謂「ハラスメント」があります。既にセクシャルハラスメント防止の取り組みが義務づけられたのは15年ほど前のことです(2007年4月)。そしてこの2022年4月からパワハラ防止が義務化された訳ですが、長年にわたり、どう捉え、どう取り組むとよいか、世間でも論じられてきました。男性と女性がいる限り、また、上司と部下がいる限り、様々な状況や環境で働くことを考えると、これらの問題は完全にはなくならないのかもしれません。
ハラスメントとは?
そもそもハラスメントとは、どういうことを言うのでしょうか?ハラスメント(harassment)とは「いじめ」「嫌がらせ」という意味になります。立場や人間的なこと(人格等)によって、相手に不快感や不利益を与え尊厳を傷つけられることとなります。個々人によって受け止め方に差が有るためハラスメントを受けた側としての主張だけではそのように認定されないこともあり、一定の客観性をもって判断されることでもあります。
例えばセクハラというと、女性に対するイメージが強いように思いますが、同性間の性的言動もセクハラですし、男女差別によるものもセクハラです。給仕は女性がやるものという言動や、男らしくないといった言動もセクハラになるようです。またパワハラは、指導を名目に行き過ぎた言動をする上司が問題になることが多いのですが、部下が自分の持つ専門技術を盾に、職場に不利益をもたらすこともパワハラとされます。
セクハラやパワハラの定義は日々議論されてもおりますが、世間で問題となる事例は様々にあり、何が問題となり何が問題とならないのか、その判断は難しいものもあり、さらには、問題になることを恐れて、スタッフとの接点自体を減らしたり、すべき指導をしなくなったりと、かえって問題になるケースもあるようです。
一般的には、ハラスメント防止のために、言動に関する規則をつくったり、相談所(部署)を設けたりしています。そうした具体的な対策は必要なことではありますが、対処療法的な方策だけで本当の問題解決になるでしょうか。
大事なことは、何がこの問題の根本なのかを見極めることだと考えます。そこには、以下のような要因が多いと感じます。
① 感情的な人間関係のもつれ
② 職務・業務に対する責任感の軽重
③ リモートワーク等による互いのコミュニケーションの不足
④ マンネリ化による職場雰囲気の停滞
⑤ 個々人のハラスメントに対する認識の違い
など、各会社、職場のよって違いは有るとおもいますが、①から⑤のような状況からハラスメントが起きやすい環境になっているものと思われます。互いを知り、信頼し合える組織作りが重要となる訳ですが、重要なことは、本質的には、一人ひとりは人間的に「平等感」で有るということ。往々にして「差別感」や「格差感」から、ハラスメントが起きてきているとも言えます。立場や仕事内容が違っても、この平等感を如何に各人が持つことができるかがキーポイントと言えるのではないでしょうか。先ずはそこが大前提です。
ハラスメントの対応にあたって重要なこと
企業で起こっている問題の現象を分析し、総評して「セクハラ」や「パワハラ」と括って表現しているわけですが、一個一個の問題を見ていくと、状況も違うし背景も違います。大事なことは、〝一人ひとり〟なのだと考えます。
例えば、社内にセクハラの疑いがあり、つぶさに状況を調べると、上司の言動に苦しむ一人がいて、苦しませていることに気づかない無防備な一人がいて、さらには、苦しんでいるスタッフがいることにも苦しませている上司がいることにも気づかないもっと上役の役職者がいてと。そしてその一方で、セクハラを受けても乗り越える一人がいたり、苦しんでいるスタッフの相談にのっている一人がいたり、見て見ぬ振りをしている一人がいたり、セクハラを注意した一人がいたり、まったく無関心の一人がいたりと。要は、一人ひとり違うのです。状況も背景も、さらには、捉え方も見方も考え方も。そうした一人ひとりをしっかり見つめていくと、それぞれに課題があるわけです。そして、最終的には、課題のあるスタッフを部下に持つというトップの課題でもあるわけです。
申し上げたいことは、こうした一人ひとりと向き合わずして、詳細な防止策を施したところで、新たなルールやシステムのなかで、姿かたちを変えて問題は繰り返されます。また、起こった問題に対して謝罪や罰則、方法論的な反省だけでは、根本的な解決にはなりません。
私たちの目指す本来の社員教育とは、人間教育、つまりヒューマニズムの考え方・哲学を共有することです。一対一の関係でヒューマニズムの哲学を共有していく。それしかありません。一人ひとりを見る。一人ひとりを知る。一人ひとりと真剣に向き合う。キーワードは〝一人ひとり〟それが極めて大切です。
メンタルヘルス対策
ここまで、ハラスメントについてお話ししてきましたが、ハラスメントと同様、見えないところで知らず知らずのうちにスタッフがメンタルの不調を抱えているケースが多くあります。メンタルの不調によりパワハラを起してしまっている場合や、モラハラによりメンタルを乱しているといったことが日常起きています。結果として欠勤が出て、離職が増えてしまいます。企業側としては人手不足ともなり、生産性が下がり、業績にも影響が出てしまいます。
メンタルヘルスとは
そもそもメンタルヘルスとはどういうことを言うのでしょうか。
精神面における健康のこと。 日本語では精神(的)健康、心(こころ)の健康と称されることが多い。 精神疾患からの回復だけではなく、社会・職場・家庭等の環境に適応できているか、いきいきと仕事ができているかといったポジティブな部分も含めた意味合い。
参考:厚生労働省
メンタルヘルス不調の代表的なものに、うつ病が挙げられます。最近では、従来のうつ病とは違った症状の「新型うつ病」などもあり、病気なのかやる気がないのか、あるいは個性なのか、判断が難しいものもあるようです。心の病気と考えると、大変難しい問題のように感じられますが、ともかく、スタッフには元気な状態でいてもらいたいものです。
メンタル不調の要因―激励が少ない
うつ病の多くは、過剰なストレスによるものと言われております。職場では、仕事のノルマ、営業成績、与えられた責任、上司や部下との人間関係。プライベートでは、両親のこと、夫婦のこと、子供のこと、あるいは、恋人や友人のこと等々、次から次へとストレスは降り積もります。まして、頑張ろうと思えば思うほど、ストレスは増していくものです。
思うに、問題を一つあげれば、増大するストレスに対して、周囲(他人)からの激励が決定的に不足しているということです。大きく社会全体を見て、そのように映ります。ストレスを癒してくれたり、抜いたりしてくれる意味での激励の絶対量が、極めて少なくなっているのではないでしょうか。それは、「成果主義」、「競争社会」、「勝ち組・負け組」といった言葉や、「人間関係・家族関係の希薄化」といった言葉にも表れているように思います。
本当に苦しみ奮闘するなかで、「予期せぬ労わりの一言に心救われ、奮起した」という話や、「上司のあの温かい一言で頑張り抜くことができた」という体験談などは、いかに激励が大切かを物語っているように思います。
メンタル不調の対策―真の激励
激励と言っても、単純なものではありません。厳しさのない優しさは決して本人のプラスにはなりませんし、かといって、優しさも労わりもない厳しさだけというのも上手くはいきません。しかも、激励は十把一絡げにできるものでもありません。一人ひとり違いますから。同じように厳しくしても、萎縮する人と、前向きに捉える人といます。また、同じ責任を課しても、大きなストレスになる人とそれをバネにする人とがいます。あるいは、同じように労わりの言葉をかけたところで、気休めとしか思わない人もいます。つまり、一人ひとりに相応しい激励が求められます。
その上で、極めて大事なことは、『人間を知る』ことです。正確には人間を知ろうとしつづけることです。
いつも元気に見えるスタッフであっても、内面までもがいつも元気だとは限りません。一人ひとり違うし、同じ一人でも常に心は変化しつづけています。人間を知ることは簡単なことではありません。まして、人は本当の悩みや苦しみはなかなか言わないものですし、責任感が強かったり真面目であれば、なおのこと、本当の苦しみや悩みは隠す傾向もあります。しかし、分かろうと本気で意識しつづけるなかで、徐々に、本人の心に響くような激励ができるようになるのです。
詰まるところ、スタッフのなかには、知らず知らずのうちにストレスを溜めこんでしまう人もいます。そうした苦しみを抱えたスタッフ一人ひとりの心に『大丈夫、わかってるぞ』と、そっと寄り添う。真の激励とはそういうことです。
うつ病の原因や対処療法は医学的には様々にあるでしょうが、自分のことを分かってくれる存在の有無が本当に大事です。世間を見れば、「ついカッとなって」、「むしゃくしゃして」といったストレス過剰をうかがわせる事件が増えています。そうした事件を見るにつけ、『誰も自分のことをわかってくれない』という心の叫びのようにも感じます。そして結果的にマグマのようにストレスを溜めて爆発させてしまうのではないでしょうか。
まとめ
今回はハラスメントとメンタルヘルスについてお話ししました。弊社でこれまで1000社の経営カウンセリングを通して、今回のテーマについて言えることは、『人間を知る』『一人ひとりを知る』ということがポイントだということです。
スタッフの心の内を知ろうともせず、理解しようともせず、表面的な結果や成果ばかりを追求していたのでは、それは強烈なストレスとなります。その結果としてハラスメントやメンタル不調などの問題が現証として表れます。我々トップリーダーは、スタッフ一人ひとりを知ろうと努めると共に、スタッフとは守らなくてはいけない存在です。今一度、一人ひとりへの激励を本気で心がけたいとあらためて感じています。
当社では、対話を通じて経営者様や部署責任者様などの悩みを解決へ導く「経営カウンセリング」のサービスを提供しています。これまで千社を超えるクライアントを成功に導いてきたノウハウから、ワンマン経営の脱し方についても丁寧にアドバイスいたします。現状にお困りの際には、お気軽にご相談いただければ幸いです。
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