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身近な問題解決が社内の人間関係を変える—カウンセリングの現場から

身近な問題解決が社内の人間関係を変える—カウンセリングの現場から

人口100万人ほどの都市にオープンして十年ほど経った中型のホテルが有りました。同じエリアにある大手資本のホテルやビジネスホテルチェーン、宴会場、結婚式場が市内に次々と進出。競合が乱立した影響を受けていました。営業強化の対策を中心に早く各部の改善をしたいとそのホテルの社長・Oさんは焦るのですが、幹部の意思疎通が上手くいかず、一歩を踏み出す前に幹部の団結につまずいている中、解決策を私どもに求めてこられました。

幹部勉強会スタート

O社長依頼に応じて、意思疎通が良くなるよう、幹部に対して毎月定期的に勉強会を通して学んでもらいつつ、コミュニケーションの改善を図ることにしました。メンバーは社長、専務、常務、総支配人、和食と洋食の調理長二人の六人です。

目的は『幹部一人ひとりが全体的な意思疎通を良くして、それまで以上に自分の持ち場を強力に率いていくこと』です。

売上が下がるのは新企画やサービス、料金体系など具体的戦術が弱いこともありますが、一番の問題は社内の団結でした。それぞれが単発的活動で、互いに連携しないと企画が上手くいかないばかりか、社内全体の雰囲気が盛り上がらず戦うべきマイナス環境に挑む勢いが生まれないのです。

六人が団結し、それぞれが環境の変革に挑み、各現場を活性化させることが重要です。そして、幹部に求められる考え方の第一は「他人頼りをやめ、全て自分の責任で行動する」「自分の都合でなく相手中心に考えて行動する」という『二つの基本』です。しかし、これらは言葉や文字では身につきません。

毎回の勉強会では、自分の現場の状況や課題、問題を報告してもらい、『二つの基本』で考え、解決方向を探り、行動を提案しました。そして、具体的に効果を確認しました。

それぞれの考え方が変わっていき「周辺で起こる問題の原因や責任を部下や外部のせいにしない責任感」を醸成していくことを目指したのでした。

 

個々人の悩みを取り除く

例えば、調理長二人は過度のライバル意識を持っており、協力はおろか意地を張り合って、お客様の要望を断ることすらありました。社長もお手上げの状態でした。勉強会ではこの二人のうち、より難しい個人的な問題を抱えている一人を対象に、その悩みを取り除くことにしました。まずは、二人に取材(ヒアリング)することから始めました。

二人の意地の張り合いは相当なものでした。調理長の一人は、五十代の和食担当で職人肌の頑固さがありましたが、個人的に深刻な問題はないようです。もう一人の四十代の洋食担当は、仕事に集中できない問題を抱えています。それは夫婦間の問題でした。結婚して二十年近いのですが、仕事等ですれ違い、夫婦の会話もない状態でした。家に帰りたくなくて仕事後は毎晩飲み歩き、朝帰りだと打明けました。そこで、洋食チーフの問題を取り除くことから取り掛かりました。

カウンセラー:「チーフ(洋食の調理長)、それ(プライベートの問題)を改善したいのでしょう?」

洋食調理長:「私達は悪循環が進んでしまって、もう元に戻れないかも。何とかする方法があれば教えて下さい」

カウンセラー:「あります。でも、本気で何とかしたいのですか?本気でなければ無駄ですよ。そして、必ず私の指導通りに実践して下さい。約束できますか?」

洋食調理長:「本当に本気です。教えて下さい」

カウンセラー:「では、今日は早めに帰り、奥様に二つのことを聞いて下さい。一つ目は奥様から見てあなたの一番悪いところは何かを聞くこと。二つ目はどうすれば直せるのか聞いて、その通りに実行すること。直すべきところと直し方は自分以外の人に教えてもらうのが一番です」

チーフは少し考えましたが「そんなの無理。できませんよ」と反論し、「聞いても教えてくれません。いわれることは分かっている」などと言い訳を始めます。

カウンセラー:「あなたと奥様の関係を良くするには、この方法しかないのです。約束でしょう『必ず』指導通りに実行して下さい。来月、報告をしてもらいますからね」と納得させました。

「分かりました。やります」と真顔でチーフは答えました。

 洋食調理風景.jpg

思わぬ結果

一ヵ月後、チーフに個人カウンセリングで会うと、更に深刻な顔で報告してきました。「おっしゃるようにやったのに、良くなるどころか、かえって悪くなった。どうしてくれるんですか!」

私には、指導を実行してこのような結果になるとは信じられませんでした。もう少し詳しく、チーフが何をどのようにしたのかを聞きました。

「女房は以前から『あなたは職場の仕事はきちんとやるけど、家に帰ると本当に全く何もしない』といっていて『少しは手伝ってほしい』と、よくこぼしています。ですから、改めて聞いて女房の機嫌を悪くすることもないので、自分から食器洗いなどで女房の手伝いを自発的に始めました」

ここに大きな問題がありました。チーフは奥様のしてほしいことをより積極的に実行したのだから、必ず上手くいくと勘違いしていました。私の指導通りでないことには、少しも気づいていないのです。

 

新たに指導

「チーフ、冷え切った関係で話し合いもないのに、何もいわずに家の手伝いを始めたら奥様はあなたのことを疑います。間違いなく一層信頼を失います。そのようなことがないようにやり方を細かく教えた指導を、あなたは勝手にアレンジして、私に相談もなく勝手に行動したから更に悪くなったのです。これを改善するとなるとかなり難しいことになります」と告げました。するとチーフは「そうですねえ。でも、何とかしなくては、教えて下さい、私はどうすればいいのですか」と、すがるように聞くのでした。

「では今度は必ず、私が申し上げる通りに実践して下さいね」と釘を刺し、「奥様に次のように話してから前回の指導を正しくその通りにやって下さい」と話しました。

「いま、会社で勉強会をしている。その内容は『自分の都合をさておいても、周りの人に喜んでもらえることを積極的に行う』ということなので、君の手伝いを始めたんだ。でも、それをきちんと君に伝えてから実行するように教えられたのに、何も君に言わないで始めたので誤解したと思う。それについては謝る」と、きちんと謝るように指導しました。関係を元に戻すことが先ですから。

その上で「勉強会で奥様に自分の欠点を聞いて、その欠点の直し方も聞いて、奥様にいわれた通りに行動を変える、という宿題が出たんだ。是非、君に協力してほしいのだけど」と奥様にお願いすることを加えました。

 

二度目の結果

チーフは今度こそ、いわれた通りの順番とやり方で、素直に実践したようでした。一カ月後の報告です。

「いやぁ、ご指導通りに女房に話したら怒られちゃった。『そういうことはきちんと話してくれれば誤解もしないですんだのよ』って。そして『あなたの悪いところはその自分勝手なところなの。これからは何でも話してね、協力するから』なんていってくれました。それからは、家で女房と話すことが多くなりました。以前とは比べものにならないくらい良い関係です。おかげさまですよ」。報告する表情が照れくさそうで、嬉しそうで、私ひとまず安心しました。

この体験で、チーフは自分勝手に解釈したり、相手の気持ちを決めつけたりしないこと、そして自分が素直になれば、周りとの人間関係も良くなることを身をもって知ったのです。社内でも彼の周りの人間関係がだんだんと良くなりました。その後、和食の調理長とも職人同士、意気があって協力し合っています。

和食料理長.jpg

社内が変わる

幹部仲間で一番関係修復が難しいと思われた調理長二人の周辺がどこよりも明るくなったのを見て、他の幹部も指導通りに取り組みました。皆で一致して改善していくようになると、相乗効果がはっきり出てきます。部門内・部門間が協力し合い、団結し、企画や戦術、戦略に実際の効果となって現れてきました。勉強会を始めて半年で業績は上向きに切り替わったのでした。

アンリミテッドの創立者・鈴木昭二曰く

相手を変えるには、まず自分が変わるのです。自分が変わると結果が変わるのです。


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