リーダーが知っておきたい心構え

今回取り上げる「リーダー」とは、例えば部・課長や部署の中心者などのことを指しています。その名のごとく、現場の責任者でもあり、部下の面倒を見るポジションでもあります。また、経営陣からは、結果を含め大きな期待感を持って注目されている存在です。
だからこそ、リーダー自身には大きなプレッシャーや人間関係の不調和によって、本来の力を発揮できないで悩んでいる方々もいらっしゃるようです。では、どうしたらその突破口を見出せるのか?
今回は、この現場の長・リーダーの皆さんが知っておくべき心構えについて触れてみたいと思います。
落込みの要因のひとつは「責任感」
トップリーダーの下、各部門長やセクション長などの現場を指揮するリーダーには、様々な「ストレス」や「重圧」がかかってきます。各リーダーは、会社の実情や現場スタッフの状態を考慮しながら、業績に対する責任を担っています。そして、重要なポジションゆえにトップからは、現場リーダーとしてのあるべき姿や業績に関する追求や指摘、時に叱責を受けることも。目の前には、それぞれが抱える課題が山積・・・。上司と現場との間に入って、いわゆる板挟みの状況に置かれたりもします。いつの間にか、本来持っている自らの力を存分に発揮できずにいるケースも少なくないようです。
力が発揮できなくなる大きな要因は何か。代表的なものが『責任感』です。その責任感ゆえに指摘や叱責が過度のストレスやプレッシャーとなり、悩み落ちこみ、活力を失い、負のスパイラルに陥ってしまう。リーダーとしての責任感は当然必要ですが、そうなってしまっては本末転倒です。
今回行われているWBC・ワールドベースボールクラシック(2023年3月8日から3月21日開催)。日本チームの4番で前年三冠王をとった村上選手は予選リーグで不調に陥っていました。自身の打順の前後にはメジャーリーガーの大先輩に挟まれ、相当のプレッシャーや周囲の期待を感じていたのだと思います。不調の要因の一つはここで言う「責任感」故ではないでしょうか。同じメジャーリーガーで日本代表のダルビッシュ有投手は、そんな村上選手に対し次のように話していました。「野球なんて気にしても仕方ない。人生の方が大事ですから。野球くらいで落ち込む必要ない」と。勿論、良い結果を出してほしい。だからこそ本人の目線を上げて、責任感を少しでも違うものにしようとの先輩リーダーの思いが感じられます。その後、村上選手の活躍が優勝という結果につながる大きな要因となったことは皆様ご存じの通りです。
リーダーの心構え1―事実をどう捉えるか
本質的には「事実は変えられないが、現実の捉え方を変えることはできる」と皆さんもお聞きになったことが有ることでしょう。前段で話したように、トップの言動などによって、確かに落ち込むことはあります。しかし、叱責を受けた事実をそのまま捉えるのでなく、改めてこんなふうに考えてみるのはいかがでしょうか・・・「どういう思いで言ってくれているのか」と。人格そのものを否定されたり、トップ自身の自己感情で叱責していることも、中には有るかもしれませんが、大事なことは、ポジティブに捉えられる自分をつくることだと考えます。たとえば、「期待しているからこそ、鍛える思いで言ってくれているのだ」と。それは決して、気休めやごまかしではありません。捉え方を変えることによって、マイナスに感じた出来事が実はプラスだったという発見をすることも有ります。それは、考え方や捉え方を身につける重要な実践、訓練だと考えることはできないでしょうか。
そして、より大切なことは『使命感』。つまり、「トップから与えられた目標や改善点を実現しなければ」という『責任感』ではなく、「トップリーダーと共有した思いを実現するのだ」という本当の意味での『使命感』に昇華した時に、ストレスやプレッシャーは「今は出来なくとも次こそは」というようなモチベーションへと質的転換をするのです。
ここで大事なのが、トップの考え方や人格になります。組織内での人間関係・信頼関係の有無です。このブログでも常々お伝えしておりますが、トップがどのような人なのかがとても重要となります。それは、今回のテーマで言うならば現場リーダーも同じことが言えます。
ともあれ、自身の身の回りの事実や出来事をどのように捉えるかがぽいんとのひとつです。
リーダーの心構え2―自分自身を見失わないようにすること
物事の見方・捉え方・考え方によって変わるということは理論ではわかる。ところが、現実になると、トップやスタッフの短所や身勝手さは見えても、自分自身が見えなくなり、〝大変な自分〟のことしか感じられなくなってしまう。あるいは、現場の諸問題やプレッシャーに悩まされ、喜びが見えなくなり、自分を見失ってしまう。
肝心なことは、苦悩の数を数えるのでなく、喜びを見出すことです。今そこにないものを求めたり、自身の未熟なところだけを見て嘆くのでなく、今あるものを一生懸命に発見することです。
たとえば、「働きたくとも職に就けない人がいる」、「くらべようもないほどの厳しい状況の現場を担っているリーダーもいる」など、基点をどこに置くのかによって、喜べること感謝できることを数多く発見できることでしょう。
一流と言われる人たちはポジティブに捉えることを自らに言い聞かせています。実は、こういう私自身も「使命感で頑張ろう」と自分に言い聞かせています。参考に、私自身、自分で自分を励ましている言葉をいくつか紹介します。
『限界は自分がそう思った瞬間に訪れるものでしかない。 そう気づいてから、自ら限界を作らないと決めました。 とにかくやれることを一生懸命やろうと』。(工藤公康・元プロ野球選手)
『結果が出ないとき、どういう自分でいられるか。決してあきらめない姿勢が、何かを生み出すきっかけをつくる』。(イチロー・プロ野球選手)
『一流の打者でさえ、十回に七回は失敗する。でも、失敗が怖い、失敗が恥ずかしいと打席から逃げる選手がいるか? いいか。そもそも人生に失敗なんてないんだ。もし、人生に唯一、失敗があるとしたら、それは「失敗すらできない」ことだ』。(大村あつし・小説家)
自分で自分を励ましながら、考え方を変え実践し、現実がだんだんと変化していくことが現場リーダーとしての醍醐味だともいえるでしょう。
リーダーの心構え3―事実と内実を見通す力を如何に身につけるか
光あれば必ず影があるように、一つの事柄には二つの側面がある。
たとえば、ある営業スタッフ。表面的には(数字だけを見れば)営業成績は振るわないが、その裏では、周りのスタッフをフォローし、同僚たちから頼られる存在であったり。また、事実は百万円の売上。しかし、満足の追求をした結果の売上なのか、偽装表示など不正なテクニックで得た売上なのか、同じ売上でもその内実はまったく違ってしまう。
つまり、表面的な事実だけを見たのでは本当のことはわからないものです。ある意味、事実がそのまま事実とは限らない。そこには内実があるわけです。表と裏、もしくは事実と内実、この両面を正しく認識しなければ、正しい判断、正しい対応はできないと思っています。
ある現場責任者が、「何度注意しても、遅刻を繰り返すスタッフがいます」と。遅刻をするという事実だけを見て指導をしても治りません。本人の体調や体質、生活のリズム、あるいは、本人の内面状況等々、そのスタッフの内実をしっかり知らなければ本当の意味での対処にはならないでしょう。
表面と裏面、事実と内実。両面ともに大切なことは、みなさん承知していると思います。しかし、いざとなると、表面のことに目を奪われ、一面的な見方になってしまったり、あるいは、事実に心奪われ、内実を見逃してしまうのではないでしょうか。
リーダーの心構え4―相手の深奥に思いを寄せる
『光と影』、それは一個の人間の中にもある。たとえば、一家団らんの時を過ごしていたり、趣味を満喫していても、心の奥底には消え去らない憂いや悩みがあったりします。また、内面では苦悩にあえぐ一方で、そうした姿を決して見せまいとする人も少なくありません。人には見せない。〝影〟の部分は、誰しもあるものです。たとえ心の内をさらけだしても、〝でもこれだけは……〟というものが。
アンリミテッド創立者は、一人の人間の心の深奥(しんおう)に温かな光を当てる人でした。日常的なことを言えば、人と会う時には、周りの人から事前にそれとなく近況を聞き、しかも、それは業務的なことにおさまらず、時には奥さんや子どものことまでも。そのようにして、これから会う人の〝見えない世界〟に、人知れず思いを寄せていました。
一人の人間の深奥に思いを寄せる。それは、必ずしもアドバイスや指摘をするということではなく、そっと寄り添うようなことではないかと思います。
ある社長が、スタッフと懇談する機会をつくりました。誰にも相談できず一人苦しんでいると感じ、社長から声を掛けました。その席では特別な会話はしませんでしたが、ただ、そのスタッフの苦悩を察しようとの思いだったとのこと。そうして静かな懇談をしたところ、別れ際にそのスタッフは「改めて頑張ります……」と。
思いを寄せたところで、実際には、何もできないことのほうが多いのかもしれません。けれども、思おうとしなければ、見えるものも見えず、気づけるものも気づけないのではないでしょうか。
また、一人の人間の深奥(しんおう)にまで思いをいたすことは極めて難しいことです。それだけに、語るに語れない思いを、言葉にできない心の叫びを、察しようとすることが大切だと思います。
総じて、私たちは、『光と影』の〝影〟の部分を何気なく見過ごしてしまうものです。この〝影〟を見ようとする眼差(まなざ)しがあるのかないのか、そこに、大きな違いがあるように思います。
ある童謡詩人の詩に、とても感銘を受けたことがある。
『朝焼け小焼けだ大漁だ/大羽(おおば)鰮(いわし)の大漁だ/浜は祭りのようだけど/海の底では何万の/鰮(いわし)のとむらいするだろう』(「大漁」金子みすゞ著)
一つの事象に内包する『光と影』をとらえたこの詩に、ハッとさせられました。『光と影』、一般的には、表と裏と言えば分りやすいかもしれません。ともすると、私たちは目に見える側面で物事を判断してしまうことが多いのではないでしょうか。
ともあれ、『光あれば必ず影あり』、このことを心に留めておきたいと思います。
【あわせて読みたいリーダー向け記事】
魅力的なリーダーになるための3つのポイント~人を惹きつけ組織を動かす!リーダーとしての資質を磨く
リーダーとしての能力を高めるには/リーダーのマネジメント能力向上