人材育成の目的は会社のため?社員の育成が売上や成長につながる理由とは

人材育成に取り組んでいるものの、「これといった効果が感じられない」という経営者も多いのではないでしょうか。
「人材育成に取り組む意義はあるのだろうか」と疑問に感じている場合は、人材育成本来の目的について立ち戻ってみるとよいかもしれません。人材育成を実施する目的は会社によって異なりますが、その根底にあるのは「会社の売上アップと成長」です。それではなぜ、人材育成は会社の成長につながるのでしょうか。本記事では人材育成が会社の売上や成長に必要な理由と、成果につながる人材育成を実践するポイントについて説明します。
現代における人材育成とは
人材育成とは簡単にいうと社員を育てることです。「社員を育てる」というと、仕事に必要な知識やスキルを教えることをイメージするかもしれません。
しかしそれは人材育成の狭義における意味です。広義でいえば、社員個人が主体性(物事を自ら判断し、責任を持って行動する態度)や自主性(ある目的に向かって能動的に取り組む態度)を持って仕事を進めるよう指導することも含まれます。
つまり人材育成とは
・教育
・訓練
・社員個人のモチベーション向上
・主体性や自主性の育成
を目的にした企業の取組みであるといえるでしょう。
「集団」から「個人」へシフトする人材育成
「社員をどう育てていくか」は人材育成の不変的な課題ですが、その捉え方は時代とともに変化しています。終身雇用制度の中で誕生した日本の人材育成は、新入社員が定年まで在籍することを前提とした「長期的な人材育成」です。長期安定雇用という組織の特徴から、会社は社員を「新卒一括入社」とひとくくりにして年次管理を実施します。社員には集団で会社を支えていく能力が求められ、人材育成の内容もそれに適ったものがほとんどでした。
しかし、転職や中途採用も珍しくない現代では、終身雇用制度はやや時代遅れの制度になりつつあります。経済産業省が2019年に発表した資料によりますと、グローバル化・デジタル化・少子化によって、日本企業を取り巻く環境は大きく変化しました(参照:変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/20190326_report.html)。
経営者には多様化する経営上の課題や経営戦略、個人の活躍など明確にしたうえで、長期的だけではなく中長期的な視野も入れた人材育成が求められています。このように、人材育成の内容は終身雇用制度にそったものから各企業のゴールに適したものへ、集団から社員個人へと優位性がシフトしつつあります。この変化を知るだけでも、「社員が育つ前にやめてしまうので人材育成をやっても意味がない」「どうやって人材育成に取り組んだらいいか分からない」という問題に、少し答えが見えてきたのではないでしょうか。
何のために社員を育てるのか。その理由を考えた時に、人材育成の目的が見えてきます。それは、「企業に貢献する人材を育てる」ことです。それではなぜ社員の育成が会社の売上や成長につながるのでしょうか。次の章からその理由について説明します。
人材育成が会社の成長に必要な理由①:社員の質は会社の生産性に直結している
会社の生産性とは簡単にいうと、投資した経営リソースに対してどの程度成果をあげられたかを示す指標のことです。この経営リソースには労働力が含まれていることからも分かるとおり、社員個人の労働力を高めることは、企業の生産性向上につながります。生産性を向上させるには業務フローの見直しや業務の一本化など、業務全体を効率化させることも有効ですが、その上流にあるのは社員の質です。仕事を切り回す社員の質が低ければ、業務の効率化に取り組んでも効果を得にくいでしょう。
そして、社員の質を高めるために必要となるのが、モチベーションアップを目的とした人材育成を実施です。
具体的には
・社員に仕事の基本スキルを身につけてもらう
・企業理念や創業者の会社設立に込めた想いなどを伝える
などが挙げられます。
基本スキルを身につけることで、社員はこれまでよりも短時間で作業を終わらせ次の作業に取り組めるようになります。
企業理念とは、いわば会社が目指している究極のゴールのことです。
会社のゴールを共有すると、社員たちは腹落ちして作業に取り組むようになります。
これが、ゴールに向かって突き進む原動力となり、結果的に生産性アップにつながるのです。
人材育成が会社の成長に必要な理由②:事業拡大には、特定のスキルを持った社員が必要
企業を取り巻く環境は、日々変化しています。特に、IT技術の発展や新型コロナウイルス感染症の蔓延により、あらゆる産業のデジタル化が加速しました。経済産業省は、これからの企業の方向性として、企業がデジタル技術を取り入れてビジネスを変換させ、新たな価値を生み出し「競争上の優位性を確立する」ことを提案しています(参考:「DX推進」とそのガイダンス(経済産業省):https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf)
そうなると、企業の競合優位性を確立するには、社員のパフォーマンスを向上させることが必然的に求められます。そしてその要求に応えるのが、人材育成です。
社員のパフォーマンスを向上させるには、
・新たな業務に必要なスキルを身につける
・より専門性の高いスキルを身につける
といったことを目的とした研修を実施することです。人材育成を通じて新たなプロジェクトに取り組むためのスキルを身につけた社員が増えれば増えるほど、会社は競争優位性というゴールに近づくことができるでしょう。
人材育成が会社の成長に必要な理由③:役職別の人材管理能力も生産性向上に貢献する
会社が利益をあげるには、社員のスキルを向上させることだけではありません。リーダーシップを発揮したりチームをまとめ上げたりする人材管理能力が必要です。いくら高いスキルを備えた社員が増えても、彼らをまとめたり適切な業務に配置させる能力に欠けていたりすると、十分にパフォーマンスを発揮することが難しくなるでしょう。
役職にはそれぞれ役割があり、求められている能力も異なります。例えば、リーダーには会社の方向性を示しゴールに向かって社員を導く能力が必要です。中間管理職は、部下と経営層・外部者との橋渡しをするコミュニケーション能力や、チームをまとめ上げるマネジメント能力が必須でしょう。こうした人材管理能力を身につける手段として用いられるのが、研修をはじめとする企業内学習です。
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実のある人材育成を実現するポイント
会社の売上や成長につながる人材育成を実施するには、さまざまなポイントがあります。ここでは、特に重要な
①自発性を促す研修設計をする
②社員が学習しやすい環境を整える
の2点について詳しく解説します。
①自発性を促す研修設計をする
人材育成を成功させる決定的な要因は、社員の自発性を促すことです。同じ研修内容でも、上からの命令で嫌々受けている従業員とやる気満々の従業員とではその学習効果は大きく異なるでしょう。社員の自発性が芽生えるのは、学びに対してベネフィットを感じた時です。
学習者が大人の場合
・即実践に結びつく学び
・課題解決に結びつく学び
・仕事と関連している学び
にベネフィットを感じやすくなります。
ベネフィットに「学びやすさ」が加わると、より一層学習意欲を高めることが期待できます。課題をクリアするごとにアイテムを獲得できるなど、ゲーム性(ゲーミフィケーション)を取り入れた研修はその一例といえるでしょう。また、研修を実施する前に、研修の目的や研修を受けることによって自分と会社がどう変化できるかを学習者に説明することも、学習者の自発性を促す良い方法です。
②社員が学習しやすい環境を整える
いくら社員に学ぶモチベーションがあっても、学習環境が整っていないと学習効果も半減してしまいます。学習環境を整えるには、人材育成の目的や内容に合わせて人材育成方法を使い分けることです。従来の人材育成方法は、内部または外部講師による集合型研修が主流でした。集合型研修は、専門家から直接知識やスキルを習得できるなどのメリットがある反面、コストや研修実施までの準備に時間がかかるなど、会社にとって負担が大きい面がありました。
また、集合型研修は実施時間が長かったり、学習量が多かったりするなど、学習者にとってもデメリットな点があります。しかし、現在ではオンラインを使ったeラーニングや現場教育(OJT)などの学習形態も普及し、コスト面などで負担を軽減できるようになりました。例えば、繰り返し学ぶ必要があれば動画を用意してオンライン上にアップロードしておき、学習者が好きな時に自由にアクセスできる環境を作ります。実務能力を身につけさせる場合は、現場教育が向いているでしょう。
このように、学習内容に適した方法を使い分けることで、社内の学習環境の改善が期待できます。
まとめ
人材育成の目的とは何かから、人材育成が会社の売上と成長につながる理由、さらに人材育成を成功させる研修設計のポイントまで解説しました。
人材育成の目的は、会社に貢献できる人材の育成です。社員を育成することが会社の発展につながる理由を整理すると以下の3つになります。
①社員の質は会社の生産性に直結している
②事業拡大には、特定のスキルを持った社員が必要
③役職別の人材管理能力も生産性向上に貢献する
人材育成の究極のゴールが会社の発展ということを理解すると、人材育成を実施する目的や方向性を決めやすくなります。人材育成本来の目的を果たすことにつながる企業内学習を実践して、会社が成長できる仕組みを整えていきましょう。