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家族経営の会社がうまくいく方法―身内経営の温泉旅館のカウンセリング事例

家族経営の会社がうまくいく方法―身内経営の温泉旅館のカウンセリング事例

「シリーズ・カウンセリングの現場から」は、弊社でご支援した実際のカウンセリング実例をご紹介いたします。

その旅館は東北の小都市にありました。歴史が古く何代も続く旅館が二十数軒並ぶ温泉地です。その温泉地の一番古い老舗旅館から経営改善の依頼があり、カウンセリングを始めました。依頼は『営業成績の向上』で、営業部の社員達との勉強会を行うことにしました。勉強会を始めるにあたり、まず社長と奥様の若女将から現状確認を行いました。お二人から話を聞いていくうちに、状況が少しずつつかめてきました。

家族経営だからこその悩みと不満

若女将は社員の行動や仕事ぶりに、かなりの不満を持っていると訴えます。しかし、本当に最も不満を持っている相手は夫、つまり社長でした。

若女将からの訴え

営業部は何もしていないと思う、と若女将は不満を打ち明けました。営業といって毎日、出かけるが何をしているか分からない。営業部長から報告もないし、旅行社に対する営業にもほとんど行かない。地元回りをしているようだが、地元のお客様も増えるどころか逆に少なくなっている。そんな状況なのに危機感もなく、夕方五時頃には部のほとんど全員が(五人)帰社して、悠々とお風呂に入ってから退社している。そのことを社長に伝えても「後で営業部長によくいっておく」と、生返事ばかりで部長も営業社員も何も変わっていない。

サービスの仲居さん達も問題がある、と続けます。お客様にもっと気配りをし、言葉遣いを丁寧にしてほしいと注意をすると「分かりました」というだけで何も変えない。仲居同士で協力して仕事に当たるという意識がなく、ベテランの仲居が新人をいじめ、新しい仲居が長続きしない。仲居頭は若女将にさえ反抗的な時がある、ということでした。それを社長に話しても「仲居のことは、大女将に何とかしてもらいなさい」と、若女将にとっては物事を依頼しずらい存在の義理の母と話せばいいと突き放すばかりで、社長はまるで対応してくれないと嘆きます。

問題は厨房にもあるといいました。料理人は自分達の世界を作り、料理を作ってしまえば、仕事は終わりとばかりにそそくさと退社してしまう。せっかくお客様が料理を追加してくれても、追加の注文を料理人に頼むと嫌な顔をする。また、サービスの仲居さん達をすぐに怒鳴るし、料理の原価についても認識が低いので困っているといいます。これについても社長は「後で、調理長に注意しておく」と返事をするだけで調理長に話をしないでいるとのことです。

大女将は若女将にとっては、一番大きな問題でした。大女将は一人で旅館に住み込み、唐突に現場に顔を出して社員に厳しい指摘をするので、それが原因で旅館を辞めていった社員もいたそうです。若女将に対しても嫁いびりのように、厳しく文句をいったり怒ったりする。社長のお母さんなのだから社長に何とかしてもらいたいのに「大女将と若女将の関係は二人の問題だから、二人で話し合って解決するように」と、ここでもまるで他人事だったそうです。

若女将の悩みは以上のようなことでした。つまり、表面上は現場の問題なのですが、その原因を探ると社長に対する不満が本当の問題だったことが分かりました。

家族経営がうまくいかない…問題のポイントは

若女将の話を聞いて、社長は言い訳をしました。「自分もよく分かっている。何とか力になりたいが、営業や付き合いなどが多くて時間が取れない。社内のことは若女将に任せるから、何とか頑張ってもらいたい。やり方には文句をいわないので、好きにやって良いよ」と、若女将の気持ちを全く理解できていない状態です。無理解な社長に若女将は感情的になり、私がそこにいるにもかかわらず席を立ってしまいました。残った社長に話しました。「若女将は自分のこと、自分の想いを分かってほしいのです。『私はこんなに苦しんで困っているにもかかわらず、誰もそれを分かってくれない』と。

それを分かってもらった上で、二人で相談し、問題を解決していきたいと思っているはずです。その根本解決は、何よりも社長が若女将から信頼してもらうこと。お二人の人間関係が良くなること以外にないのです」と指導しました。

社長の挑戦

社長はその指導にある程度納得できたようでした。しかし「信頼関係を強くするといっても時間が取れません。出張が多いし、帰ってくれば事務処理や地元の付き合いで、すれ違いの生活です。若女将も夜遅くまで仕事があるので、なかなか家では時間が取れず、結果として会社で話すことが多くなるのです。すると、いまのような喧嘩になってしまうのです」と発言は弱気です。社長は本当に対応策が分かっていないようなので、更に具体的に指導します。

「若女将が訴えたいのは『私はこんなに現場で頑張っている。社長は私の何も分かっていない。現場のことは私任せで何も手伝おうとしない。社長の会社でしょう、少しは力になってほしい」という意味です。時間の問題ではなく、若女将の力になることがポイントになるのですから『若女将の手伝いをしたい。何か手伝うことがあるか?』と聞いてみて、言う通りに手伝いをしてください。そこから女将との信頼関係を改善していきましょう」と提案しました。

犬の散歩

一ヵ月後、社長に会って結果を聞いたところ、機嫌悪そうにこう答えました。

「アンリミさんのおっしゃる通り『何か手伝うことがあるか?』と聞いた時、若女将は何といったと思います......。少し考えてから『そうね、じゃあ、犬の散歩でもして下さい』、といったんですよ。それを聞いて、私は頭にきて『ふざけるな!俺が手伝うといったのはそんなことじゃない!仕事のことだ!』と喧嘩になってしまいました。その後は口も利かない状態が続いています。若女将が悪いのだから、いまは若女将が謝るまで待っているところです」と説明してきました。

家族経営だからこその難しさー若女将の本音は?

社長に指導しました。「なぜその時『分かった。犬の散歩だね』と、素直に散歩に行かなかったのですか?若女将が社長に手伝ってほしいと思っている仕事には、犬の散歩もあったのです。『何か手伝うよ』と言い出した社長の気持ちが、本気なのかどうかを試すために、まず犬の散歩を持ち出したのです。犬の散歩をきちんと実行すれば、若女将は社長が本気だと感じて『犬の散歩はもういいですから、この仕事をお願いします』と、少しは心を開き始めたでしょうに。それなのに若女将の気持ちが分からないかで喧嘩になるなんて、事態は更に難しくなりましたね」と指摘すると、社長は若女将の本音に気づいたのですが、この後の解決の方法が分からない様子でした。この社長はそういう人でした。

身内経営の中心者・社長の変化から関係改善へ

「社長は素直にいままでのことを若女将に謝って下さい。結婚してからのことを振り返って詫びて下さい。自分の悪かったところを認めずに、これからは頑張るといっても信用されないものです。反省のない決意は決意とはいいません。行動の変化のない決意は、単なる思いつきなのです。つまり、若女将との信頼関係を築くためには、いままでのことを真摯に反省して、若女将を守ることに力を入れるのです。どんなことがあっても若女将を守っていくとの決意と行動が二人の信頼関係を強くするのです。信頼し合う社長と若女将を見て、社員は安心して仕事に取り組むことが出来るようになるのです。

二人で協力して社内の問題に対応すれば、良い社員は二人を尊敬して仕事をします。悪い社員は二人が仲良くなったために、逃げ場がなくなり辞めていくようにもなります。社長と若女将の夫婦仲が良くならないと、問題は解決しないのですから、勇気を持って挑戦して下さい」と指導しました。社長はかなり考えこんでいましたが、決意し指導を受けいれ実践しました。

若女将はすぐには社長を信用しなかったようですが、社長の変化を見て、徐々に態度が変わっていきました。それからは二人が協力して営業部の改革ら始め、社内の様々な問題にカウンセリングを受けながら取り組み、一番難しい問題と思われた若女将と大女将との嫁と姑の関係も薄皮が剝がれるように次第に解決していきました。

強い信頼の絆が良い結果を生む

組織においては、トップとその身近な人達との人間関係が経営全体に大きな影響をおよぼすものです。特に、オーナー社長の場合、夫婦関係や親子関係は非常に大事なポイントになります。組織は人間の集まりです。組織を構成する人間と中心者であるトップとの『信頼』という絆が強ければ、仕事において必ず良い結果が生まれます。

アンリミ創立者・鈴木昭二曰く

絆というものは相手を尊敬した分しかできない。人として相手を尊敬するのです。

 

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