人材育成事例紹介ーシリーズ・カウンセリングの現場から

「シリーズ・カウンセリングの現場から」は、弊社でご支援した実際のカウンセリング実例をご紹介いたします。その従業員30名の会社は、設立後、思うように売り上げが伸びず、資金繰りや借り入れも限界となっていました。昇給もできずボーナスもだせず、残業手当すらだせなくなっていました。このままでは倒産するしかない状況をなんとか打開したいと、役員の給料をカットしてカウンセリングを受け始め、ようやく少しずつ変わりつつあるが、思うような結果の変化はまだでていない状態でした。
ある社員のできごと
ある日、社長とのカウンセリングが終わり、5時30分頃次回の打ち合わせを事務所でしているときのことでした。勤続4年になるが、毎日のように遅刻をして、仕事もダラダラしていて、いつも会社の不満をいっている若手社員A君(28歳)が退社しようとしました。
その姿をみた社長が「おい、A君帰るのか。この後、お客様との打合せがあるだろう?」というと、A君は「僕は朝9時に出勤して給料分はもう働きました。これ以上働けというなら、残業手当をきちんとだしてください」と反論してきました。それを聞いた社長は答えに窮しました。彼のいう通り、資金繰りに困り残業手当をだしたりださなかったりしていたからです。社長の答えのないのをみて「では、これで帰ります。お疲れ様でした」と事務所の他の社員に声をかけて帰ろうとしました。
私はA君を引き止めて話をすることにしました。彼の言い分は論理的に間違いはない。かといって、ここで帰らせては、言い分をそのまま認めて本人をはじめ、周りの社員までが同じような考えになります。この現場で即座に対応しなくてはならない。私はその場で声をかけました。
「A君、あなたもご存知でしょうが、私はこの会社を良くするためにきています。あなたの言い分にも一理あると思うので話を聞かせてもらっていいですか」
気づきを与える
「僕はここに勤めて4年になります。ここ2年はボーナスも昇給もないし、社員旅行やレクリエーションもない、残業手当もでないことが多いでしょ。だから給料分は働くけどそれ以上の仕事はしません」と改めてはっきりいいました。彼の言い分はもっともで、会社の実情がそのような考え方を引きだしてしまったのも事実でした。同席する社長は大変残念な気持ちだったでしょう。目をそらし、壁をみていました。現状はこの通りなのです。しかし、そのことに何の対応もしなければA君だけ本人の(ある意味自分中心な)考えを認めることとなります。単純に考えられる対応は別のスタッフがフォローしてA君には退社してもらうか、A君に行動を変えてもらうかの二つに一つです。
社長も同じですが、社員も現状打破の戦いをする積極的な人間にならなければ、明るい未来はないのです。A君自身の今後にも、現状に甘んじてマイナス方向へ向く思考傾向は良くないと思い、彼の未来を思いながらカウンセリングを始めました。
マイナス思考で不満をいっても、あきらめていても決してその解決はできないばかりか、さらに不利になるものです。まず、マイナス思考の不合理に自分自身が気づくように、彼の話を聞くことから始めます。
Q、君は給料分は働くといって、9時から5時30分までがいまの給料分だといったね。
A、はい、そうです。いまの給料分は働きます。もっと働けというならば給料を上げてください。
Q、なるほど、給料分は働くというのであれば来月はいまの給料の3倍だそう。そうするといまの9時から5時30分では給料分にはならないから、3倍の時間、寝ないで働いてもらうがいいか。
A、そんな……。
Q、君は考え違いをしている。給料というものはもらった分だけ働くのではなく、働いた分しかもらえないのだよ。いい仕事をすれば増え、いい加減にしていれば増えないという意味だけど。
A、僕は一生懸命働いてます。でも僕の給料は他の会社よりも安いし、ろくに昇給もしません。残業手当も殆どでません。
Q、誰だって自分は毎日仕事を適当にやってます、などといわないよ。一生懸命働いていると君はいったけど、仕事の評価は周りの人がするのです。周りの人に君のことを聞いてみて、評価を確認してみてもいいか。
A、それは……。僕の評価はとにかく、この会社はボーナスや残業手当もないんですよ。
Q、もちろん知っています。だからそのような状況を変えようと社長は新しい努力を始めているのです。その社長を信じて一緒にがんばってくれないか?もし君にやる気があるならば、必ず君の待遇は変えてあげよう。
今日はこれで帰っていいよ、帰って今後のことを良く考えて、これからがんばるのであれば明日は遅刻をしないできなさい・・・
実際はもう少し長い話し合いでしたが、要約すればこの通りです。途中、A君は声を荒げたり、考え込んだりしましたが、社長が努力していることや、周りには遅刻もせず、仕事に励んでいる人もいることを再認識して、自分の考え方に矛盾があると気づいたようでした。
評価し激励する
社長にいいました。「彼が明日遅刻をしないで出社したら、ほめてあげてください。そして帰るときに社長から1000円でもいいですから、小遣いをあげて激励してください」とお願いしました。実はお金はベストではないのですが、この場合はそれが良いと判断しました。A君は次の日に遅刻をしないできましたので、社長は指導通り、出勤してきた彼をみつけて「おはよう。今日は早いね」と声をかけてほんのちょっとですが話していました。それを確認してから、私は「A君が1ヵ月遅刻をしないで真面目に出勤したら、給料を5000円だけ上げてほしい」とお願いし、彼に対しては時を移さず基本的な指導をしました。
使命感の自覚
「A君、あなたは4年間もこの大変な会社で働いてくれたね。だから、本来のA君は忍耐強く、真面目に仕事をするタイプの人間だといえる。けれどね、いまの仕事に対する取り組み方を聞いてみると、自分は何のためにこの仕事をするのかがわかからなくて、自分の仕事の意味がつかめないでいたんじゃないかな。会社が言葉で教えることはできても、自分にとっての仕事は自分でしか意味づけをできないからね。元をただせば、君はこの会社での仕事を通して多くのお客様に喜びや満足を提供するためにこの会社にいるのです。そうでなかったら、とっくにこの会社を辞めていたでしょう? その使命が君にあるからこそ、いまここにいるのです。これからは、もう一度原点に返ってあなたががんばれば、これまで以上にお客様に喜んでもらうことも、満足してもらったりもできます。君の行動が変化したことでお客様が増えたり、あなたが求められる人となると、周りの人も行動を変えるし、結果として皆が良くなるようにもできるのです」そのような内容を丁寧に話しました。
さらなる評価と激励とその結果
「君が変われば、社長の君に対する評価も変わり、待遇も変わるはずです(最初に5000円アップから)。それを信じてがんばってください」A君はこの指導と、社長の継続的な激励によって真面目に仕事に取り組みました。その結果自分に対する評価も変わることを実感して、仕事に対して積極的になり、その姿をみた周りの社員もスムーズに変わっていきました。
A君はまさに職場において居ては困る人から、居なくてはならない人になったのでした。その後、会社の業績も年ごとに改善されて、A君は3年後には業務課長として活躍することになりました。
人材育成とは人間の可能性を信じて、継続的な【評価・指導・激励】の実践により可能となることを再確認したいと思います。
◆アンリミテッドのテキストには、人材とは「会社の正しい目的と使命を自覚し、日々の仕事において結果のだせる人」と定義されています。
一般に、仕事的には
①いわれたこともできない人
②いわれたことはできる人
③いわれたこと以上にできる人
と、三つのタイプがあるといわれます。
会社的には、
①居ては困る人
②居ても居なくてもいい人
③居なければならない人
ともいわれてます。
しかし、③のような「人財」は入社して初めからそうではなかったのではないでしょうか。また、どんな人でもタイプが固定しているのではなく、育成する側の係わり方次第で様々に変わっていくものです。育成の必須ポイントは会社の正しい使命と、自分の使命を自覚させ、評価、指導、激励を繰り返し継続することなのです。
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