【結婚式場等サービス業向け】新装オープン時に競合他店に負けない施設をつくるーシリーズ・カウンセリングの現場から

ある地方都市で長年ブライダルや宴会を行ってきた施設のN社長は、古くなってしまった設備を新しく改装し、屋号やロゴも変え、新たにスタートしたいと考えていました。ライバル会社が改装を行って成績を伸ばし、もう一社・大手式場が新しく進出して競争が激しくなり、このままでは他店に遅れをとる。それどころか自社の存続すら危惧されてのことでした。建物はできつつありましたが、集客をはかるには、どのような手順で進め、サービスや演出、営業展開などをどう変えていけば効果が出るのか確信が持てない状況でした。
改装時には顧客の期待と満足度は上がる
施設・設備(ハード)は新しい設備のコンセプトをきちんと決めて、同時並行で資金手当てをし、設計事務所や建設会社に依頼をすればでき上がります。しかしハードができるまでの営業展開や、完成後の運営、つまりお客様への対応などのオペレーションや人材の確保、教育などのソフトの確立がオープン後の成否を決めます。そこで現場の対応力を新しくつくり上げるらめ、弊社にご依頼をいただき現場支援を始めました。
改装前後の営業展開は「認知」「調査・使用」「愛用」の順番で展開を進めます。「認知」は、新しい名前の店を多くの人に知ってもらうことです。「調査・使用」は、とりあえず使っていただくことにより、サービスや料理、雰囲気などを味わってもらうこと。そしてその後に「愛用」顧客をつくり続けることとなります。
展開
その会社へ行き、まず「認知」について確認しました。すぐに全体を示されて、ネットをはじめ各種媒体を有効に計画しているとわかりました。営業活動での告知作業も確認し、これまでのクレームの取材作業に関しての確認も行いました。
これまで愛用して下さったお客様以外にも、これまで利用したことが無い方の中にも新店に興味をもたれる方がかなりいて、ほぼ満足のいくスタート時におけるご利用者には手ごたえを感じました。しかし、大事なのは、その先の愛用顧客を数多くつくり上げることであり、困難なことでもあります。
強烈なファンを作っていくことに対して、社長はじめ幹部の皆さんからは、どのように具体的な作業をすればよいのか、要領を得ないご返事が返ってきました。まずは、社内理解が重要と感じ取組みのポイント解説から始めました。
設備が新しくなると、お客様は施設だけでなくサービスや内容にも、以前よりも高い満足の提供を期待します。つまりお客様の期待度数が改装により上がっているのです。スタッフ全員を新しくするわけにはいかないので、意識を改革することが必要となります。今後末永く愛用していただくためには現場の対応力強化が最大テーマとなります。社内スタッフの更なる成長と具体的な接客力向上の実践が必要だと社長も全面的に協力することになりました。
まずは作業習熟から
新たな店舗オープン時には準備には「時間」がキーポイントとなります。お客様が多く来店することが見込まれるため、その時点で不満足を与えてしまうと取り返しがつかなくなります。お客様が不満足を感じる大きな要因のひとつが「待たされる」こと。今回の会社で言えば結婚式も会食や宴会も決まった時間にスタートできなかったり、時間が長くなるのはお客様の迷惑となります。スタッフを中心に、現場で使用する道具の一つひとつの置き場所を実際に決めて、連携の取り方も実際の進行にあわせて何度もシミュレーションします。オープン10日前からは事前のリハーサルを行いました。特に、1回目と2回目のお客様の入れ替え・・・業界では「ドンデン」と呼ばれる作業の流れを何度も確認しました。全員を班分けして、お客様が全員退出したときを合図に、テーブルの上を片付けてテーブルをしまい掃除し、すぐにレイアウトし直してテーブルをセットします。結婚式であれば椅子を並べて出席者の名前通りに引出物を並べ装飾しつつ、食器を置き、お迎えのBGMを流すまできっちり準備します。約30分~1時間で行うわけですから、体力で勝負しつつ正確さが大切です。時間を計りながら何度も繰り返し確認しあいました。改装後のお客様受入れではドンデン後の一組もスタートが遅れることなく、お客様をお迎えできました。
これまでも行ってきた一連の作業ではありますが、繰り返しシミュレートする中で、効率的に出来ることや、協力する中で時間や手間を短縮できる点を発見でき、チームとしての取組みに一定の効果があらわれました。繰り返しは単純で面倒な作業ですが効果は抜群です。粘り強く実施するには、中心者の熱量と全員の目的意識がとても重要です。これは、サービス業に限らずあらゆる仕事現場でも同様に言えることだと思います。
内容の充実と社内対応力の強化
お客様に満足していただくためサービス力、接客力の強化に最も効果のあるのが「反省会」の実施とお客様からのクレームを取材することです。「反省会」は社内の問題の確認であり、クレームは社外の「お客様」からの問題提起の確認で、どちらもサービス対応力の強化になくてはならないからです。その会社では、反省会は毎週月曜日に行いました。全員参加が基本ですが、各セクションの代表で話し合うのも効果はあります。このときは改装してすぐでしたので、一人ひとりの意識向上のために全員参加にしました。
反省会の進め方は「結果」→「原因」→「対応策」→「実行」→「確認」と進めます。「結果」とは、施行で起きた失敗や問題など気づいたことを、どんな小さなことでも全部書き出していくことです。このときは「料理をお出しするのが遅くなった」「BGMのタイミングが合わなかった」「飲み物の足りないテーブルがあった」などのイージーミスや「結婚式施行でのお色直しが遅れた」「写真撮影に時間がかかった」などの技術的な問題が見つかりました。
このときに他の人のミスを言い立てて攻撃する人がいましたが、これはNGです。必ず起きた結果をもとに、人を追求するのではなく、お客様にどうしたら満足を与えられるのか?との目線に考え方をあらためて、前向きな提案をしていくことを促しました。クレームやお客様の声から、一つひとつの「原因」を分析します。人的な問題、設備的な問題、技術的な問題、システム・連携の問題などに分類するのです。分類したら「対応策」を協議して実行責任者と期日を決めます。それらをまとめて書き出して、誰が見てもわかるところに貼り出して、実行できたところから消していくのが「確認」です。次のお客様対応時にも「確認」をしていくのです。「結果」→「原因」→「対応策」→「実行」→「確認」の反省会を繰り返すことによりミスの数は少なくなります。2回目、3回目とイージーミスがなくなっていくのがわかりました。それが励みとなって、反省会はお客様に喜んでいただける、新しい具体的な方法論を生み出す場となりました。
いわれる前に対応する
次はお客様からの声を聞いて対応力を強くすることです。まずお客様からのクレームを怖がらないことを社内で確認しました。もちろんクレームはあってはならないことですが、なくなることはありません。クレームにいかに対応するのか、クレームになるようなことを前もって防いでいくのかが大事なのです。営業勉強会で接客サービスについて話し合いました。たとえば、居酒屋でお客から「灰皿をもうひとつ下さい」「生ビールのおかわりお願いします」といわれるのは、注文を頂いたのではなく、厳密にいえばお客様のクレームではないのか?(言わないと対応しないのか!とお客様が不足を感じていたのかもしれない)
サービススタッフが前もって「灰皿は足りてますか」「ビールのおかわりはいかがですか」と聞くことができれば「よく気が付く」「サービスがいい」と思われるはずです。つまり、不足や不満をお客様から先にいわれるのは、すでにクレームなのではないか?ということです。 ならば、お客様が何を望み、何を欲しがっているのかを適切に知ることが大事なのです。お客様の要望を知るには直接、声を聞いた方が、対応に間違いが出ないはずです。
ウェブや用紙を使ったアンケートはどの会社も行っていることですが、なかなか本音は見えてこないものです。この会社で言えば、結婚式で言えば、お客様の施行後に集金や写真などをお渡しする機会を活用して、できる限り取材をすることなど実施しました。勿論お客様は良いことしか言っていただけないことが多いものです。それゆえ、アフターフォローのチームやカスタマーサクセスのメンバーが電話やメール、イベント案内など様々な機会を通してお客様に真摯に耳を傾ける取組を実施しました。クレームはお客様の満足を強化するための貴重な情報であると認識して、アフターフォローに力を入れたのです。
お客様の要望には全て応える
お客様の要望にはすぐに改善できるものと、予算が大きくかかる或いは設備面などすぐに改善できない要望も出てきます。反省会で「駐車場と距離が有る」「玄関から会場までの導線が長い」など、すぐに対応できないことも出ました。スタッフも「これは直せないです、無理です」といった反応でした。しかし、すぐにできないからと何もしなければ、お客様の声を無視することになり、本来、目的とする対応力は強化できません。知恵を出し合って対応策を絞り出しました。
駐車場の問題は、離れた場所の駐車場にも、お客様が利用する時間帯に合わせてワゴン車をシャトル運行して不便を感じないように努力しようと決めました。また、了承いただいたお客様の車は、スタッフが代行して駐車場まで移動させるサービスを開始。そのためにスタッフのシフトをお客様の受入れ時間帯には玄関に増員配置。全体観でシフトを組むことでお客様に喜んでいただけるよう取組みを行いました。ご希望の方には窓ふきやタイヤクリーンなども行ったので「そこまでやるのか!」とお客様から驚かれたという声も上がりました。
長いエントランスや、ロビーまでの導線では、テーブルや椅子の配置を変えて、スペースを確保して、所どころにお客様を飽きさせない工夫を設置しました。ロビーサービスの飲み物は勿論のこと、お子様に喜ばれるような遊具スペースだったり、所謂、フォトスポットの設置。また、結婚式の時にはご両家の歴史をしれるような写真や映像が見られるようなスペースに利用も開始しました。このようにさまざまな改善をして、お客様にご満足を提供するには自分たちの努力が必要なのだという考えが、社内に自然に定着していきました。
更に課題をつくり続ける
お客様の要望に必ず応える、という考え方が根づいたそのときに「いまの仕事のやり方に満足してはならない」と具体的に認識していく一連の流れをつくりました。社内では反省会を定例化して問題や課題を積極的に掘り起こしてサービス強化をはかり、社外ではお客様を積極的に取材して報告、相談の定例会を行い、クレームが起きる前に対応力を強化していく姿勢を確立します。また、現実のクレームには誠実に相手の期待を上回る対応を実践する体制もつくりました。半年後、これがお客様から評価され、この式場はライバル二社を結婚式の受注件数でも上回り、愛用顧客も増えて地域一番店となっていました。
その後も順調に数字を上げていったと聞きますが、社長はじめ、スタッフが前向きに取り組んだ結果にほかなりません。弊社のカウンセリング支援自体は形がない無形商材ではありますが、お客様であるクライアントの皆さんが実践されて形になって、取組みの正しさが証明されたことに私たちは喜びを感じております。
創立者・鈴木昭二曰く
方法論のなかにしか本質論はない。大事なことはいかにお客様に満足してもらうか、喜んでもらうかを考えて、そのためにどうすればいいのかと、つねに工夫し、努力し現場を変えていく連続なのである。つまり変える姿勢を変えないのだ。