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温泉旅館のスタッフ教育事例ーシリーズ・カウンセリングの現場から

温泉旅館のスタッフ教育事例ーシリーズ・カウンセリングの現場から

そのベテラン女将は焦っていました。自分の旅館の隣接地にあったホテルが、ブランド力と優れた人材をかかえているグループ会社へと運営を委託。一年後にグランドオープンするからでした。女将の旅館もかつては、たいへん賑わった旅館でしたが、設備も古くなって、手が届きそうな場所での強力なライバルホテルの出現は、彼女にとって死活問題に見えていました。それまでは、女将の旅館が地域一番店として、観光宿泊客の他、地元の宴会や婚礼や法事も数多く手がけていましたが、今後、どれもライバルに流れていくだろうと不安にかられていました。そんな時、女将の昔からの知人で最近業績が良いとの評判を聞いたあるホテルの社長に相談をしたことから、弊社・アンリミを知ることとなりました。

ホテル旅館業は〝おもてなし〟の質が問われるため、人的資本が大きく影響する産業です。接客にあたっては、女将を先頭に仲居さんをはじめとしたスタッフが対応するわけですが、接客技術とあわせて、個々の印象や人間力が問われます。今回は、その人材マネジメントを如何に高めていくかに成功した事例をご紹介いたします。

(2022年6月27日更新)


■焦る女将さん

女将、「目の前にあのようなホテルが進出してきたら、宿泊も宴会も結婚式も半分になりそうです……。対抗するために向こうのオープン前に改装することは多少はできます。でも、それが対抗策として有効かどうか…。また心配なのが、私どもの大事な社員が辞めて、向こうへと移ってしまうんじゃないかということです。仲居さん達も心配なのです。うちの仲居さん達はほとんどの人がパート社員ですので、高い時給を提示されたら辞めていくでしょう?給料を上げることはいますぐにはできませんから、辞めないように社員教育をしてくれるコンサルタントがあれば紹介してください……」

といった内容でした。

切実な話を聞いたその社長は、

〝そんな大きなライバルに資金力では対抗できないでしょう。きっと、人間力で対抗した方がはるかに売上確保の効果がある。社内の人間力を強化して、その後で設備投資やシステムの改善をしなくてはならない。実は、私はそのことをアンリミという会社から学んで、現在、上手くいっているのです。人間力については、いますぐには解説できませんから、そのことをまず女将さん自身が学んだ方がいいのではないですか」と話したのでした。

そのような流れで女将さんの心配事がそのまま、カウンセリングの依頼内容となるわけです。

■ライバル店新装オープンまであと一年/まず女将の意識変革

(落ち着いて考え、社内をまとめること)。

 女将の心配(依頼内容)を確認しましたところ、この旅館のトップは彼女ですが、焦る気持ちで多くのことに目が行き届かなくなりそうでした。

どの会社も同じですが、まずトップの経営理念、経営の目的を確認します。

〝女将さんは、何のためにこの旅館を経営していますか?〟〝社員やパートの仲居さんのことをいつもどのように思っていますか?〟

何のため?と問いかけが、時に、焦って悩んでいる問題から離れて、原点を再確認することになり、冷静になることにつながるものです。

女将、「何のためにこの旅館を経営しているかといわれても、……そんなことは決まってますよ、……お客様に喜んで頂くためですよ……(といったものの更に考えてしまいます。次に)

仲居さん達は大事な人材ですよ。いつもこの旅館で働いていてくれてありがたいと思ってます(と、ここまでは普通の答えです)」更に確認しました。

〝では、その大事な仲居さん達に感謝しているということですね?〟

女将、「もちろんです。仲居さん達ばかりではなく、その他の社員にも感謝しています。家族だとも思ってますよ。そのためにも『皆を守っていかないと』と思っています」

〝なるほど、その通りです。……では、その家族を他のホテルがするよりも大事にしていって下さい。大事にするというのは給料を上げることではなく、女将さんが皆からいま以上に好かれることです。そのための具体的な方法は、毎日認めて、毎日ほめてあげてください」などと指導して実践して頂くようにしました。女将さんは、その後もライバルが気になっていましたが、指導を通して「いくら焦っても、気にしても相手のことはどうすることもできない」と納得して、いまできる自分の行動を指導に従って変えていきました。

■ライバル店のオープンまであと半年

ホームページ開設をはじめ、雑誌に掲載されたり、宣伝活動や営業活動が強化されました。サービス担当の社員募集も始まる(時給は高い)。更に焦る女将。

〝女将さん、そろそろ仲居さん達の勉強会をしましょうか〟と提案すると、待ってました、もっと早くしてほしかったとばかりに「はい!はい!よろしくお願いします。すぐに皆を集めます」と、いまにも全館放送でもしそうでした。その女将に聞きました。

〝どうしたら仲居さん達があっちのホテルに行かないようにすることができると思いますか?〟

女将、「そうですね、時給を上げることや、休みを多くとらせたりすることですか?……よく分かりません」

〝はい。確かに条件も大事ですが、もっと大事なのは使命感を持たせることなんです〟女将は内容がよくつかめず、少し困惑気味でした。仲居さんの勉強会が始まりました。

最初から使命感などの難しい話はしないで、楽しい話や、面白い話をして雰囲気を和らげるようにします。心が開かれた状態にないと、指導したいことが頭に入らないからです。その後、本題に入りますが、ここでも難しい言葉は使いません。まず仕事観の確認からです。

 

■仲居さんの変化

仲居さん達に質問をしました。〝皆さんは何が欲しくてこの旅館で働いているのですか?〟

一人ずつ答えて、ほぼ全員が「お金が欲しくて働いている」と同じ答えでした。更に「そんな当たり前のことを聞いてどうするの?」という声もでました。

お金の使途は生活費や、教育費、自分の小遣いなど様々でしたが、皆お金が欲しくて働いているということです。もちろん、この働く目的観は間違いではありません。しかし、ただお金のために働くのであれば、より高い給料が良いとなって、ライバルに移るのが普通です。

そこで更に質問をしました。

"皆さんは、お金が欲しくてここで働いているということですね。では例えば、今後、皆さんに私がいまの給料の三倍のお金を毎月差し上げます。皆さんはこれから働かなくても、何をしてもいいということです。すると、どんな生活になるか考えてみて下さい〟と話して、仲居さん達の反応を待っていました。皆それぞれに考え始め、少したってから何人か手が挙がりました。

「あのう、その三倍のお金を貰っても、他で働いてもいいですか?」

その理由を聞きました。すると「だって、お金があっても働いていないと面白くない」との意見でした。みんな「私も同じよ」というように頷いていました。そこで

〝なるほど。皆さんはお金が欲しくて、ここで働いているといったけど、お金だけあってもつまらない、面白くないのですね。ということは、皆さんは『お金のためだけ』にここで働いているのではない、ということになりますね。

つまり、ただお金をもらうのではなく仕事をして、お客様に喜ばれたり、仲間と一緒に仲良く仕事をすることや、女将さんに仕事を認められたりして、毎日楽しく仕事ができて、その結果として給料が少しずつでも上がっていくことが良いということですね。先ほど『お金が欲しい、お金が大事』といってましたが、その意味は、仕事の充実感や達成感、満足感を感じながら、お金も欲しい、お金も大事ということだったんですね〟と話してみますと、全員が口を揃えて、

「その通りよ、何いってんのよ。そんなこと当たり前のことじゃない!」とこれも全員が頷いていました。

そこで続けて話します。〝では、皆さんがこの旅館で働いているのは、女将さんと力を合わせてお客様に喜んで頂いたり、満足して頂くために皆さんそれぞれが自分の持ち場で、仲間の人と協力して、お客様から『この旅館に泊まって良かった、また来るよ、ありがとう』といわれるような仕事をするために、ここで働いているわけですね。それが皆さんの使命ということになりますね〟と問い掛けると、返事は更に――

「そうよ、私達はお客様に喜んで頂くことが一番嬉しいのよ」とこれまた口を揃えていました。

最後に、今の気持ちを確認させてもらいます。

〝では、皆さん今日の勉強会の感想を紙に書いて下さい。内容はこれからの仕事に対して『これから、このように仕事に取り組みます』という決意と勉強会の感想をお願いします」と一人ひとりに提出して頂きました。

その内容は、全員が自分の仕事に対して誇りを持ち、今後も女将さんと一緒に働いていきたいなどと、使命感あふれるものでした。

それを見た女将さんは感激して、嬉し涙を流していました。

■その後・・・

ライバルオープンとその後このような勉強会を繰り返しました。仲居さん達はこの旅館で働くことの意味を自ら確認でき、女将も心からみんなを大事にしていきました。

オープンの前も後も、社員や仲居さんは誰一人辞めずに女将さんと共に頑張りました。社員の心の満足はお客様の心の満足につながります。結果として、宿泊客や宴会、婚礼数は減少するどころか、昨年の数字を上回りました。これが一人ひとりの人間力を集結することなのです。

地力をつけたその後は、改装などを行い、設備も充実して更にいい結果を出していくこととなりました。

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