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幹部育成のポイントとは/社長の片腕に育った事例ーシリーズ・カウンセリングの現場から

幹部育成のポイントとは/社長の片腕に育った事例ーシリーズ・カウンセリングの現場から

創業時から社長を支えたその会社の部長ですが、指示がなければ動けないし、「会社経営の角度」からの考え方ができないでいました。その部長を会社組織において社長の片腕となる幹部に蘇らせた幹部育成の事例です。

■社長の思いと専務の考え

関東近郊でレストランを中心に多店舗展開するその会社は創業二十年を迎えていました。社長は創業者、奥様が専務として数年前から経営に関わっています。二十周年のこの年、様々なメディアにも取り上げられ、店舗数も一気に増え、社員は百人近くになり、各店長や幹部職などもそれぞれの持ち場で活躍していました。勢いの感じる会社でした。

社長は会社の業績の更なるアップはもちろん、それ以上に気にしていたのが人材の育成でした。将来を見据え、特に幹部の成長を考えていました。規模の拡大に人材力がついていっていないと今後を見据え危機感を抱いていました。

奥様の専務は社員に対してはドライに考えるタイプで、仕事を真面目にきちんとしていれば良いと考えていて、互いの関係性はある程度の距離を保ち、業務以外にはあまり関心を持ってはいませんでした。弊社のカウンセリング導入については、社員が良く変わるのなら良いことだと思っていらっしゃいました。

■社長からの依頼

カウンセリングの依頼目的をいろいろ取材していき、社長の思いを再確認しました。それは「仕事を始めた頃から一緒に働く部長が、もう少し会社経営の意識を持って、社長の片腕、また現場の中心者として更に活躍してほしい。しかし、現状はいままでの経験と決められた職務のなかでしか仕事に取り組まないし、社長の指示がないと動かないように見える。部長として少し物足りないので、この部長を成長させたい」ということでした。

■経営者カウンセリングの実施

カウンセリングは社長と専務の二人で受けていただくようにお願いしました。そのなかで「人間は自分の『ミッション(使命)を自覚した時』に成長する」という内容のカウンセリングを行いました。そして「何のためにこの仕事をしているのか?」と仕事観の確認をすることが大切ですと話し、社長に問いかけました。

「社長は何のためにこの仕事をし、この会社を経営しているのですか?」

すると、社長も専務も答を考える以前に、質問の意図を疑って怪訝(けげん)な顔で(なぜそんな質問をするのか、そんなことは分かっているでしょう)といわんばかりになりました。

そこで「どうしました、お答えください」と続けると、

「そんな質問は初めてです、何のために仕事をしているかなんて決まっているじゃないですか・・・」

「では、その決まっている答えをお聞かせください」と続けました。今度は何か決まりが悪そうな顔になり、いっていいのか悪いのかという感じになっていきました。そこでと更に促しました。

「どうぞ遠慮なく、社長の思っていることをお話しください」

「いや~、それはこの仕事は自分が好きで始めたわけだし、始めたからには成功させたかったし、利益も上げたかったし。まあ、色々ありますよ」などと、はぐらかそうとします。分かって当たり前のような質問に答えが見つからないのですが、この質問をすると多くの社長が同じような答え方になります。ここではそれ以上は追及しませんでした。

仕事のレベルアップや人を育てるには「会社の正しい目的観の確立、正しい経営理念の確立が大切」など、基本的なことについて確認していきました。社長も専務も納得するところがあったのか、納得した表情でその日のカウンセリングが終わりました。

翌月、二回目のカウンセリングに伺いましたところ、部屋には社長と専務ともう一人、テーマとなっていた部長がいました。

「前回はとても勉強になりました。その後、専務とも話し合ったのですが、これを学ぶと成長できると思います。ですから、私と専務の他、部長にも教えてほしいのです。参加を許していただきたい」と社長はいいました。実は、これも数多くの社長が間違えることなのです。

「部長の参加は現時点では認められません。アンリミの哲学を勉強する時『耳』は少ない方が良いのがこれまでの経験的実感です。また、この勉強で学んだことは経営者自身のなかに取り入れるものなので社員に話してはいけません」と、私がきっぱりとお伝えしますと、専務が少し感情的になって言いました。

「私、前回はとても勉強になりました。こんな良い内容なら、部長も参加して一緒に勉強したなら、早く経営者の感覚を身につけられるのではないですか?それなのに、カウンセリングには参加させないし、勉強の内容を社員に話してもいけないとおっしゃるのですか。だったら、どうやってこの場で学んだことを社内に伝えるのですか?」社長も同じ意見だとうなずいていました。しかし、この点を理解するには少し時間がかかります。

「詳しい説明は後でしますが、大丈夫です。後になると分かりますので、いまは指導通りにしてください」といって部長には退席していただきました。

部長が退席してしまうと三人だけになり、社長が不満を訴え始めました。

「あの部長をもっと成長させたいんですよ。二十年来のつき合いなのに、このまま若い社員に追い抜かれてしまうのは忍びない。自覚というか、ナンバー3として、経営者側として考えて行動すれば変わると思う。経営者感覚が身につくから、彼にも教えてやった方が良いと思うんだけどね」等々。

「分かりました。では、部長を育てるために大事なポイントを申し上げます。社長はそのポイントとなることを実践してください」と要望に応える形で指導を与えます。二人は身を乗り出しました。

■トップリーダー自身があらためる

「まず、社長があの部長にお詫びをしてください、謝ってくださいね」と話したところ、二人はポカンとした顔になり、そしてすぐに専務が「なんで社長があの部長に謝らなければならないの?謝ってほしいのは私達の方ですよ」と噛みついてきました。社長は訳が分からない、身に覚えがないという表情でした。「社長、いいですか。部長は二十年も一緒に仕事をして社長を支えてきた人ですよ。そのことに対して感謝の気持ちはないのですか?」続けて「そんなに長く一緒にいて部長の可能性を引き出せなかったのは、社長、あなたですよ。それを棚に上げて物足りないとか、成長していないとか。いえばいうほど部長の可能性は閉じてしまいます。寂しくて、つらくて、気持ちはなえる一方でしょうね。部長を部長らしくできなかったのは社長の責任です。社長が部長にお詫びをするのは当然のことではないですか?」そう話しますと、専務は理解できない顔をしていましたが、社長は何かを感じているようでした。そこで更に、

「ですから、まず部長に対して、いままで支えてくれたことを感謝すると共に、部長の可能性を引き出せなかったことを謝るのです。その上でこんな社長だけれども、これからも一緒に働いて、支えてほしいと話すのです」と伝えました。

■人材の育成は社長の仕事

社長は、私の顔をじっと見てからその視線をはずし、遠くを見るように、しばらく無言のままでいました。専務は何かをいいたそうでしたが、そんな社長を見つめていました。やがて社長が話し出しました。

「部長は仕事を始めた頃、将来どうなるか分からないのに一緒に頑張ってくれた。あの頃は大変だったが、部長と二人で乗り越えてきた。そうだった、そうだった……」と昔のアルバムをめくるようにしみじみと。

「あなたの言う通りだ。部長に対して自分の要求だけをしていた。そして足りないところだけを見ていた。彼は彼なりに頑張っているのにそれも認めずに……。彼はそんな社長を見て、嫌な気持ちになっただろう。いや本当に申し訳ないことをしてきた」と自分に言い聞かせつつ、私に気持ちを吐き出しました。それを聞いている専務も何かを感じたようになり、下を向いてしまいました。

社長はその後、意を決したように、

「分かりました。部長に会って早速謝ります。本当にいままで有難うといいます。そして、こんな社長だがこれからも一緒に仕事をしてくれと頼みますよ。今日はとても良い指導をありがとうございました」と晴れ晴れとした顔でした。

信頼関係の基本―気持ちを分かり合う

 次のカウンセリングでは早速、社長から部長との個人面談の報告がありました。

「あのカウンセリングの後、すぐに部長と話しました。いわれた通りに最初に部長に詫びました。『本当にすまなかった、許してくれ』といいましたら、始めのうち部長は何が何だか分からないようでしたが、いままでのことや本当に部長には感謝していることなどを本気で話しました。部長は分かってくれました。『本当は自分自身、社長の期待に応えていないことが情けなかったし、専務には嫌われていてこのままだと会社を辞めるしかないとまで思い込んでいました。やっと互いの気持ちを分かり合えた気がします』と打ち明けてくれたのです。そしてこれからも一緒に仕事をやっていこうと二人で約束をしました。するとね、その次の日からは別人のような部長になったのですよ。ビックリするくらい元気な声で社員に挨拶や指示をするようになってね。私や専務との打ち合わせも積極的にするようになりまして・・・。呼吸が合ってきました。いや~、前とは全く違う人間みたいですよ」

胸のつかえが一つ取れて、社長の気持ちよい声がはずんでいました。担当カウンセラーの私も嬉しい気持ちになり、応えました。「部長も社長から信頼されていることが分かって嬉しかったでしょう。そして部長としての使命に気づいたのでしょう。良かったですね。これこそが社長の仕事ですよ。これからも社長として第二、第三の部長を育成してください。そして社員が明るく元気で働く職場を作り上げることが社長の使命であり、仕事なのです、そのためにこの会社を経営しているのですよ」

これが、この社長の仕事に対する正しい目的観なのです。まだまだ学び始めの時期でしたが、素直に実践できた社長も立派です。その後、社長は自分が何のためにこの仕事をしているのか、という仕事観を自分のなかに確立していきました。

アンリミ創立者・鈴木昭二曰く

感謝とは相手を尊敬することである。鏡に向かった自分が頭を下げると相手も鏡の中で頭を下げる、こちらが尊敬すれば相手も尊敬する。多くの場合こちらが感謝の気持ちで接していると相手も感謝を示すものです。

 

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