高い自己目標を目指して立ち直った課長 ーシリーズ・カウンセリングの現場から

地方の中都市にある大型結婚式場の話です。オープン以来、婚礼組数が少しずつ減少している原因は大手結婚式場にありがちな部門別担当制と、新規客対応力の弱さにありました。
部門別担当制は、お客様との信頼関係を築くことが難しいのです。その結果、それぞれの披露宴の特色を出せないため、来賓にアピールできず、次につながらないのが弱点です。
また、新規来店のお客様に本質的な内容の話抜きで、式場の売り込みばかりを話すため決定率は上がらないのです。
最初に訪問した当時、男性社員のMさんは予約フロントの係長でした。しかし、係長といっても組数が上がらないのを「何とかしたい」と責任感が強い訳でもなく、新規対応の決定率も他の女性社員の方が彼を上回っていました。当然ながら新規予約対応メンバー(六人)は彼を尊敬も信頼もしていないので、組織としてまとまりはなく、それぞれが自分の担当の仕事を黙々とこなしていました。
改革の始まり
売上減少を止めるには、まず結婚式場の商品である披露宴の中身の改善が必要と判断し、バンケット担当のスタッフを中心に体制を変えていきました。新規対応力の強化策として、そのM係長を中心に、予約フロントメンバーの決定率を上げるためのカウンセリングを開始しました。新規対応力は予約担当者個々人の対話力などの力量とチームワークが大切です。個々人の力量アップは、仕事に対する本質的な考え方を教えることと、具体的なセールストークの改善から始めました。更に、お客様との対応にはM係長を中心としたチームワークが必要になりますので、M係長のスタッフからの信頼が必須条件です。
本質論を中心とした勉強会
スタッフに結婚の目的を本質論的に理解してもらった上で、お客様が満足する原理原則を勉強します。そして、それを踏まえたセールストークを具体的に練習してもらいました。そのなかでM係長はいままで誰からも専門的な指導を受けたことがなかったので、かなり刺激を受けたようでした。
水を得た魚のように
本質的な考え方、捉え方、見方がよほど刺激的だったのでしょう、M係長はすぐに共感して、みるみるうちに具体的に自分の仕事に応用し始めました。特に新規の対応で、それまで悪かった決定率がどんどん上がっていきました。心構えややり方を変えれば結果が変わることを自身でも実感して毎日、実に楽しく仕事ができるようになり、表情にも自信があふれてきました。同時に彼に対する周りの評価が上がり、女性スタッフからの信頼も少しずつ高くなっていきました。チームワークが良くなり、当然のように組数上昇に弾みがつきました。
昇進
婚礼売上が良くなったことと、M係長の著しい成長は社長も気づくところとなり、人事異動の時期でもないのに、特例として課長に昇進させました。その時、M課長よりも先輩で会社関係を中心とする渉外課長が同じ営業部にいましたが、互いに刺激し合い成績を上げていくことを期待して、敢えて課長を二人にして部長は空席にしました。その昇進を受けた新任のM課長は更に張り切り、元気にお客様に接して、決定率も下がることなく約一年が過ぎました。
新しい人事
そんな時、M課長から相談されました。持ち味のはずの元気で明るい様子はなく、落ち込んでいるようでした。
「もう、仕事に対してやる気がなくなりました。自分がいままでやってきたことは何だったか分からなくなりました。この会社には将来、何の希望も見えません。このままでは自分にとっても周りのスタッフにとっても、あまり良いことにならないので辞めようとも考えています」という相談でした。
深刻な話しぶりなので、更に詳しく理由を聞いてみました。直接的な理由は、定期の人事異動時期の組織変更で、二人課長で二課に分かれていた営業部を一つに統合し、部長には先輩の渉外課長が昇進したことのようでした。更にM課長から話を聞いていくと、彼の本音が見えてきました。
新任部長に対する嫉妬
まとめると次のようになります。
「社長の考え方はおかしいですよ。確かに渉外課長は自分より先輩ですけど、いままで特に目立った実績がないのに部長にするのは、えこひいきをしているように思えませんか。私はここ二年で格段に売上を上げてきた実績があります。営業は売上を上げて一人前でしょう。こんな人事を考える社長にはついていけません。みんなのやる気がなくなりますよ。今回の人事には、大体の営業部員や予約のスタッフも納得できないといってます。みんな不満を持ってやる気をなくしています。これは自分が部長になりたくていっているのではないのです。みんなのやる気が心配でいっているのです」という意見でした。
自分が部長になるべきだ、という思いが見え見えの意見です。
人材を生かすもの
M課長は何故そのような考え方になってしまったのか。M課長は本来の元気な課長に戻れるのでしょうか?
(以下、C…当社カウンセラー、M…M課長)
C:「M課長、あなたは何のために仕事をしているかは分かっているでしょう。」
M:「分かっています、お客様に喜んで頂くためです。そのために、何をしなければならないかは分かっています。いままで教えて頂いて、その実践を通して確信してます。この気持ちは誰にも負けませんし、実績も上げてきました。」
C:「それが分かっていて何故仕事に対して、たかが人事の問題で落ち込んだり悩んだりするのですか?」
M:「僕の実績を会社が正当に評価しないからです。」
C:「その理由はおかしいでしょう。あなたは仕事はお客様のためにしているといいながら、本音は自分を認めてもらいたいのです。それでは、自分のために仕事をしていることになりませんか? あなたがいま落ち込んでいる原因は、愚痴をいったり、慢心に陥りやすい傾向があるからと判断できます。このままではその傾向が、あなたの良いところを全て壊してしまうのではないかと心配です。その傾向を引き出したのは、自分の仕事上の目標の低さです。あなたのこの会社における目標は、せいぜい総支配人になりたいというところではないですか?」
M:「………………。」
C:「そのような、目に見える目標も大事ですが、もっと大きな目標を持つべきです。日本一の婚礼担当者を目指しなさい。数の問題ではなく、質においての日本一です。例えば、お客様が『あなたと会えて良かった』『M課長に申し込みます』と喜んで申し込まれる、営業としての日本一を目指すのです。また、施行を担当したら『とても良い結婚式でした』『感動的な披露宴で良かった』『M課長に担当してもらえて、最高でした』等と、いってもらえるように日本一の施行を目指して一つひとつに取り組むのです。」
「もう一度いいますが、自己目標を高く持ちなさい。特に形に現れる目標よりも、誰にも真似できない本質的な目標です。『日本一お客様に喜ばれる営業担当者』であり、『日本一感動を与える婚礼施行担当者』というようなエンドレスの目標をお持ちなさい。役職や数字などにこだわると、あなたの場合は達成するたびに慢心が顔を出し、満たされないと不満や愚痴をこぼす傾向があります。それが、やがてはせっかくの長所や実績を隠してしまいます。エンドレスな目標に挑み続ける潔い姿の方があなたらしいし、それがいつも元気で頼りになる人ではないですか。日本一を目指せば、社内の評価等で悩む必要はなくなるものです。また、いまはどうであれ、いつも明るく元気で、周りのスタッフから信頼されていれば、評価は間違いなくいま以上になります。」
M:「はい、分かりました!!」
日本一へのこだわりに燃えて
悩んで落ち込むのは、自分にとって損なだけ。M課長は自分から愚痴や不満を一掃すべく、日本一喜ばれる営業担当に「こだわり」続けて、前向きに取り組みました。その数年後には、また昇進して肩書きも変わったのですが、その前後を通して、颯爽とした姿が印象的な方でした。どうしても周囲と比べたり、良い訳のできない数字などに人は影響されてしまいます。責任感から押しつぶされることも少なくありません。しかし、本来、その人にしかない、その人にしかできない仕事(役割)は必ずあります。またその人でしか果たせない使命も誰にでもあるのです。大きな目的観に立って見据えた時には、それまでの悩みは小さな、些細なことのように見下ろせる自分に成長できるものです。
自分にしかない、自分自身の良さを発揮して、職場における無くてはならない存在に成長されることを願っております。
アンリミ創立者・鈴木昭二曰く
男は爽やかに、凛々しく、生きるべき事実を一所懸命に生き抜く。そのためには、いまの目標をもっと高次元な目標にする。
そうでないと自分の可能性は現在の状態に止まってしまうでしょう。あなたは能力がないのではないのです。
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