営業の基本ー訪問営業は新規4割・アフターフォローが6割ーシリーズ・カウンセリングの現場から

地方の冠婚葬祭業は、以前とだいぶ変わってきたものの互助会含め、外回り営業がまだまだ行われています。今回お届けするのは、いったんは営業実績を良くしたが、本質を見誤ったために迷走した会社の例です。コンビニでも卸売でもレストランでも業種を問わず、リピート客に比べると新規客を呼び込むには、数倍のコストや時間が必要です。今回取り上げる結婚式場業の営業も、いつも新規顧客を探しているだけでは上手くいきません。実際には、既に利用した人の評価が高いことで、周りの評価が自然に高まっていき、次のお客様の成約率につながるのです。
「あの店がいいから」といったん固定客となると、何度も来ていただくことになります。そのたびに「やはりいいね」と評価を得るには、どうしたら良いのでしょうか。結婚式の場合は常に、担当者の誠意が相手に伝わるまで、丁寧に相手の話を聞いて実践することとなります。いまいるお客様に全力を投入してリピーターを生む、アフターフォロー重視の営業がどんな業界でも大切なのです。力の入れ方は新規営業4割以下、既存の顧客へのアフターフォロー営業六割以上が基本です。アフターフォロー営業は、新規一辺倒よりも結果的に努力が報われます。
とある地方の結婚式場の事例
その式場は、それまでは営業活動などはしたことがなく、折込チラシや広告、インターネット情報、地元紙などにイベントやニュースを打ち出して、そこからお客様の問い合わせや予約申し込みをいただく「待ち」の営業手法でした。当然ですが、広告宣伝費を大量に使用するライバルの大手式場には敵わず、徐々に施行組数が落ち始め、ついには資金繰りに困るようになっていました。
外回りの営業活動
その会社の社長のご子息の専務は、営業方法などを誰からも教えてもらえず、婚礼組数の減少をどうすることもできずに、フロントでお客様を待ち続けていました。しかし、私達から外訪営業のやり方を教えられたとたん、素晴らしい行動力を発揮して大変な勢いで三人の部下と営業に取り組みました。営業の基本である訪問・面談の件数と回数は瞬く間に増え、三ヵ月も過ぎると契約数は前年に追いつきました。こころ得たりとばかり、新たに三人の営業マンを採用して外訪営業に弾みをつけました。
不振だった頃は、契約後の打ち合わせやさまざまな手配などは専門の担当マネジャーが一人で行っていましたが、指導後は一貫担当者制に変えて、契約した営業マンが打ち合わせ以降も担当しました。最初は戸惑った専務はじめ営業マン達も、自分が契約したお客様との会話や打ち合わせに喜んで対応しました。
ところが、その打ち合わせはお客様の仕事が終わってから行うので、お客様宅にお伺いしても会場にお呼びしても、通常は夜間におよびます。そのうち、専務は情報収集して営業活動に取り組み、契約を取れば取るほど打ち合わせの時間が増えていくことに気づきました。
営業活動のジレンマ
営業の面白さを知り、契約の楽しさを知り、訪問・面談する中で、契約できそうな新規の情報をたくさん得るようになりました。そこで、新規の営業に行こうとすると、契約済みのお客様との打ち合わせが入ります。「そのたびにいつも時間がかかります」「行きたい新規営業に行けない」「ようやく打ち合わせのない日ができて、新規のお客様を訪問すると、他の式場に予約済み」。そんな部下の報告が毎週一、二件出るようになりました。同時に契約件数も伸びなくなり、専務はジレンマに焦るようになりました。
これでは自分が拾おうと思っている目の前のお金を、他の人が拾っていくのをみすみす指をくわえて見ているようだ。打ち合わせのせいで、思うように営業に行けない。契約件数が伸びないのは、この一貫担当者制にある。このやり方は欠陥がある。何とかしなくては・・・そう考えた専務が相談にきました。
「いまの営業体制や打ち合わせのやり方には問題があります。営業活動が疎かになるために組数が増えないのだと思います。打ち合わせは以前のようにマネージャーとバンケットスタッフに任せて、営業担当は外訪活動に専念すべきです。我々は新規営業に時間を使いたい」と言ってきました。
実は、そこには根本的な誤りがありましたが、専務は自分の考えに思い入れが強く、指導を受け入れる状態ではなかったので、その時は指摘せず少し話をしておきました。「営業というのは、取るだけではやがて上手くいかなくなります。全く営業活動していなかったのなら、まずは外訪活動を積極的に行うべきですが、ある程度数字が上がったら、後はお客様との信頼関係のなかで情報獲得や営業活動ができるようになります。繰り返しますが、取るだけの営業活動はやがて必ず行き詰まりますよ」
専務は「いいえ、大丈夫です。だって、みんなで回りきれないほど情報があるし。しばらく見ていてください。打ち合わせさえなければドンドン営業に行ってドンドン契約を取ってきますから!」と、意気揚々と毎日部下と共に外回りに専念し始めました。
それからは、専務と部下達は毎日朝礼が終わると直ぐに、外回りに出かけていきました。夕方に一度食事がてら話し合いに社へ戻るだけで、夜は更に営業活動をして直帰する。営業活動以外の仕事は披露宴当日のフロアサービスのみで、社内にはほとんどいませんでした。
営業活動中心に動き出してから情報量も増えて、新規予約も取れ始めると専務達は勢い、生き生きとなりました。専務は自分の考えと決断に間違いはないと確信しました。
リーダーの戸惑い
そして一ヵ月が過ぎようとする時に専務は戸惑いを感じました。毎日、毎日営業活動に取り組んで、契約は初めのうちこそ順調に増えましたが、そのペースが落ち始めてきたのです。情報量は増えていくのですが、その割りに契約が伸びなくなっていたのでした。契約の数が増えていかないことに悩み始めた専務は、決定率の問題なら打率の低い人は情報集めに専念し、そのなかで見込みのあるものは専務と決定率の良い社員が訪問して契約に持ち込むように更に分業化しました。
そのような動きを見て専務に少し話しました。「見込みのありそうなところを集中的に訪問しているようだけど、そこだけに偏るのは考えものです。見込みのあるお客様の契約を取れないショックが大きく出ますよ」と。
専務は精一杯頑張って、「大丈夫ですよ。いま集中的に訪問しているのは、我々の式場を気に入っているお客様達ですから。全部のお客様の契約は無理でも、八割は取れると思います」と、更に訪問を続けていきました。
しかし、更に二ヵ月が過ぎた頃、八割と宣言した結果が二割もいかないことになってしまいました。あれだけ一生懸命に営業活動を行ったのに、あまりにひどい結果となった理由が分からず、専務は落ち込みました。誰かに相談したいと思いつつ、二ヵ月が過ぎたのは、自分の間違いを認めるようで、何となくプライドが傷つくからでした。どうにもならなくなってから、プライドよりも組数を何とかしなければ、という気持ちが勝って相談にきました。
営業の考え方
このタイミングを見て専務に話しました。
「取るだけの営業の『お客様獲得方式』だけだと行き詰まるのです。お客様を育てながら獲得する『お客様養成獲得方式』の考え方と方法を身につけなさい。人間の歴史もそうですね。原始時代に動物を獲って暮らしていた狩猟民族が、ただ獲るだけでは生活が安定せず、原野を拓いて穀物を作り、家畜を飼育し始めたでしょう。つまり育てながら収穫する方式に変えたのです。原始時代でも、収穫という結果を出すには、獲るだけの獲得方式ではなく、育てて収穫するという養成獲得方式がいいことは証明されていたのです。
いま、この時代に専務が改めて証明する必要性はなかったのに、専務は何ヵ月もかけて、いみじくもその再検証をされたのです。では、お客様養成獲得方式はどうすればいいのか? 予約のお客様を大事にするところから始めるのです」
その後の展開
専務は営業の基本を学びました。営業はお客様との信頼関係の上に展開することです。そのために、自分の結婚式場においては一貫担当者制を実施して、一組ごとのお客様を一人が最初から最後までしっかりフォローしてから、お客様の友人、知人、親せきの人達を紹介していただきます。それが新規訪問営業より、効果的な営業活動になることを実感していくのでした。
更に、獲るだけの専任営業は「契約を取りたい、取りたい」という自分中心の心理状態になって、見込みのあるお客様も逃げてしまい、効率は落ちることも学びました。長い時間、大変な体力勝負をして肝にしみた本質は「自分の都合でお客様と契約するのではなく、お客様の満足のために契約という方法がある」という考え方でした。それは自分のために販売するのではなく、お客様に満足を提供するために販売するという本質であり、業種を問わない考え方といえます。
考え方の角度が正しくなれば、行動が空回りしなくなります。もともと行動力がある専務でしたから、素晴らしい結果を叩き出して、その後二年で組数を三倍にすることができました。
創立者・鈴木昭二曰く
新しい友人を作りたかったら、古い友人を大切にすることである。
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